香中研情報教育部会の取り組み
香中研情報教育研究部
研究主題
高度情報通信社会に対応する学校教育の在り方
〜生徒の学習を支援するコンピュータ等の活用方法について〜
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1 研究主題について
(1)社会的背景から
高度情報通信社会の進展に伴い,教育の内容や方法が大きく変わろうとしている。
コンピュータや携帯電話等,情報通信機器は急速に普及し,日常生活において新しい形のコミュニケーションやオンラインによる商品の購入等,ライフスタイルに大きな変化を及ぼしている。
こうした変化の激しい社会の中で,子どもたちが本当に必要な情報を取捨選択し,その情報に対して主体的に対応していくため,平成14年度から実施されている学習指導要領では,自ら学び自ら考える力等の「生きる力」を育むことが重視されており,「情報活用能力」は「生きる力」の重要な要素としてとらえている。
平成14年8月「初等中等教育におけるITの活用の推進に関する検討会議報告書」では,子どもたちに「確かな学力」を育む場としての学校において,「ITの効果的な活用はさまざまな可能性を秘めており,我々はその可能性を追求すること」「各教科を指導していく教員をはじめとして学校教育関係者は,学習指導要領のねらいの効果的な達成のためのIT活用に積極的に関与していくこと」が必要であると述べられている。
(2)生徒の実態や取り巻く環境から
香川県県下全学年男女対象(サンプル数 およそ1000名)に調査
以上の調査結果より,コンピュータの保有率やネットワーク環境など家庭におけるインフラ整備が急速に進んでいることがわかる。
また,電子メールや検索など日常的に活用している生徒も多いる。
コンピュータを使った授業に興味関心が高く,どの教科においてもコンピュータを使ってほしいと希望している者も多い。
電子メールやWebページ等のネットワークを介した交流は,生徒一人一人のコミュニケーションの幅を広げたり,表現力を高めたり,多面的な考え方を深めたりするのに効果的であるに違いない。
その反面,有害サイトへのアクセスや個人情報の漏洩など,情報モラルの欠如による問題が生じてくる。
情報化の進展した社会に身をおく子供たちにとっては避けられない問題である。
これらの問題に対処できる力を生徒につけていくことは,学校だけでなく社会全体に課せられた課題の一つである。
(3)平成13年度の研究の成果と課題から
平成13年度の研究大会においては「生きる力」を育てる手段としての情報教育の必要性を述べている。
また,研究授業では「コンピュータの活用」によって学習活動の多様化,広がりを目指した。
このような研究から指摘された今後の課題として次の3点があげられている。
ア 情報通信ネットワークに関するリテラシーの育成を教科・総合の時間等の中でどう位置づけるかについての研究
イ 情報通信ネットワークに対応できるハード,ソフト面など環境整備についての研究
ウ 情報通信ネットワークの活用をめざした教員研修についての研究
このような現状や背景を踏まえて,本研究会では「確かな学力」を育むために,「ハード」,「ソフト」,「教員」の3つの要素を土台としながら,
@メディアリテラシーの育成を目指した指導の在り方について,
A生徒の学習を支援するコンピュータや情報通信メディア等の活用方法について,
Bネットワーク社会に対応した情報モラル育成の手だてについて
研究を進めてきた。
以上のような理由から,研究主題を「高度情報通信社会に対応する学校教育の在り方」とし,サブテーマ「生徒の学習を支援するコンピュータ等の活用方法について」を設定した。
2 研究の仮説
(1)教科や総合的な学習の時間の学習指導において,コンピュータや情報通信ネットワークを効果的に活用すれば,授業のねらいが達成でき,確かな学力を身に付けることができるであろう。
(2)情報モラルやメディアリテラシーを育てる学習指導を工夫することにより,情報活用能力が育つであろう。
(3)情報通信機器の整備や職員研修の実施等により教職員のリテラシーを向上させれば,学校全体に情報教育を浸透させられるだろう。
3 研究の内容
本年度は,研究仮説をより具体的に検証していくために,各郡市の取り組みを中心として次のような内容で研究実践を進めることにした。
(1) コンピュータや情報通信ネットワーク等を効果的に活用した授業の改善
(2) 情報モラルやメディアリテラシーを育てる学習指導の工夫
(3) IT活用のための学習環境の整備と職員研修の工夫
4 研究の実際と考察
(1)コンピュータや情報通信ネットワーク等を効果的に活用した授業の改善
ア 生徒の理解を助けるためのコンピュータの活用例
坂出市立坂出中学校では,ノート型パソコンと電子情報ボードやプロジェクターを利用し,普通教室や特別教室で生徒の理解を助けるための道具としてコンピュータを活用している。
数学科では,インターネット上のデジタルコンテンツを有効に利用し,方程式を指導するのに活用している。
コンピュータの動画をプロジェクターで提示し,方程式を実際の生活の場面におきかえて具体的に示し式をイメージとしてとらえさせる。
美術の授業では,電子情報ボードで仏像の画像を示し,画面上で線を加えたり加工したりすることで仏像の造りや特徴を明確に捉えさせるのに活用した。音楽の授業では,歌う前に動画を見せることで曲のイメージを理解させたり,楽譜を拡大して提示し歌い方の指導に活用したりしている。このようにコンピュータを活用することで,生徒の興味関心を高めたり,理解を助けたりすることでよくわかる授業や質の高い授業づくりにつなげている。
数学科での活用例 デジタルコンテンツを活用した教材(数学)
美術科での電子情報ボードの活用 音楽科での電子情報ボードの活用
イ 生徒の理解を助けるためのコンピュータの活用例
飯山町立飯山中学校では,コンピュータ4台を家庭科教室にスタンドアローンで設置し,授業に活用している。
家庭科の授業で学習したことのまとめの場面で,コンピュータのプレゼンテーションソフトを使って発表をさせている。
また,実習においても教育用のデジタルコンテンツを利用して例えば玉結びなど見本となる作業の動画をCDに焼き付け,生徒が必要とする場合すぐにやり方を見られるようにし,生徒の活動の助けになるようにしている。
住居に関するプレゼンテーションソフトを活用した発表 生徒のプレゼンテーション
(2)情報モラルやメディアリテラシーを育てる学習指導の工夫
ア 総合的な学習の時間での情報モラルついて
綾南町立綾南中学校の総合的な学習の時間では,情報モラルについての学習を位置づけており,インターネットで検索する前に情報モラルの大切さを指導している。
情報モラルの最初の時間では生徒同士にチャットをさせる体験を通して,匿名社会の怖さを指導している。
実際のチャットの体験から,一見コンピュータ上ではだれの発言かわからない印象をうける。しかし,サーバー上で記録が残り,だれの発言であるかわかることを学習する。
さらに,簡易的にウィルス付きメールを開くとどうなるかなどを体験している。
これらを通して,匿名の世界では悪意のある行為やまちがった情報が存在すること,無責任な行為に対しては,決して匿名のままではいられないことを学んでいる。
これらの授業を通して,情報モラルの大切さやネットワーク上では自分自身が責任をもたなければならないことに気づかせる学習をしている。
授業風景(チャット) ワークシート
(3)IT活用のための学習環境の整備と職員研修の工夫
ア コンピュータ教室の整備と校内LANの工夫
これからのコンピュータ教室では,多様な学習形態に対応できるように工夫することが必要である。
ノート型パソコンと無線LANの導入によってレイアウトを自由に変更することが可能になり,一斉学習,個別学習,グループ学習等の多様な学習形態に対応できるようになる。
詫間町立詫間中学校では,技術の時間に無線LANとノートパソコンを有効に活用しロボットコンテストを行っている。
無線LANを活用することで,競技場を教室の中心に配置させ,教室内をロボットコンテストが行いやすい教室のレイアウトにしている。
また,授業のまとめでプロジェクターを利用し,生徒のプログラムの工夫点などを効率よく説明している。
このように無線LANの活用で,今までのコンピュータ教室のような教室配置の自由度少ないものと違って,より教科の特性を生かしたコンピュータの活用ができている。
無線LANを活用して教科の目的にあわせた教室レイアウト(技術科 ロボットコンテスト)
イ 職員研修の工夫
文部科学省では平成17年度を目標にすべての教室と特別教室にコンピュータを配置し,すべての教室からインターネットに接続できる環境づくりを目標としている。
これを受けて,豊中中学校では,現職教育の研修の一環で夏季休業中にコンピュータの研修を行っている。
研修前に各個人から,コンピュータに関してアンケートを取り,各自のコンピュータの活用状況,今直面している課題,今後の抱負を冊子にまとめ,学校全体の職員の活用状況や問題点を共有する。
そして,夏季休業中にそれぞれが各教科で活用できる教材をコンピュータで製作していく。それらをつくる過程において教師で助け合い,さらに完成したものを発表することでお互いのリテラシーを高めるように研修を進めている。
校内研の資料より)
また,高松支部では,毎年各校からコンピュータを活用した教材や実践事例を集め,まとめたCDを市内の各校に公開することでコンピュータを活用した授業づくりの裾野が広がるように取り組んでいる。
6 研究のまとめと今後の課題
コンピュータや電子情報ボードなどを積極的に授業に活用することで,生徒の興味関心を高めたり理解を助けたりすることができた。
さらにデジタルコンテンツの活用は,生徒の理解を助けより質の高いわかる授業づくりにつなげることができている。
情報モラルの授業では,生徒たちにネットワーク社会の怖さや自分自身が責任をもつことの必要性を体験的に理解させ,今までのような道徳の時間だけの情報モラルからより一歩進んだ実践な学習指導ができた。
無線LANなどを活用した授業ではより教科の目標を達成しやすくし,今後も質の高い授業づくりの可能性を示している。
これらの取り組みを各校で実践していくためには,校内LANなどのハード面の充実と教員の指導力を向上させていくことが大切である。
しかしハード面については,学校によって生徒の実態やコンピュータの整備状況の格差が大きいのが実態である。
さらに各校の実態に合わせて様々な工夫をして行く必要があると考えられる。またハード面において無線LANの活用はコンピュータ教室以外での活用が期待できるが,セキュリティー面において検討していかなければならない。
環境が整えられても,すべての教師がコンピュータを活用して授業ができなければその価値は少なくなる。
そこで教師の研修の在り方についてこれからもさらに研究を深めて行く必要がある。
また,
「香川県教育情報データベース(http://db.kagawa-edu.jp/)」や
さぬき・東かがわ支部では「授業に役立つリンク集(http://ns.okawa1-j.ed.jp/~ookawa-zyouhou/)」
など,授業に役立つデータベースやリンク集が県内で立ち上げられた。
情報モラルについては様々な事件に対応して
「情報モラル授業サポートセンター(http://sweb.nctd.go.jp/)」
が立ち上げられた。
これらのデータを利用するだけでなく,今後多くの教員によって数多くの教材コンテンツづくりに参加するようにならなければならないと考える。
香川県教育情報データベース 香中研情報部会さぬき,東かがわ支部
(http://db.kagawa-edu.jp/) (http://ns.okawa1-j.ed.jp/~ookawa-zyouhou/)
情報モラル授業サポートセンター(http://sweb.nctd.go.jp/)