授業後の協議

 
授業者の教師から
 
 
授業者T12種類の容器を使って一定の容積を量りとろうという内容だが,題材としては「課題学習」になる。まず,コンピュータ(PC)を活用した研究授業ということで,どのようなことができるのか考えた。通常の学習でもよかったのだが,今回のような課題学習でやってみれば,いろいろな力を身につけさせる内容を研究できるのではないかと思い実践してみた。本学級1年1組の生徒の実態としては,割と元気のよい返事や発表ができ,指示を与えれば活発に活動できる。しかし,学力的にはかなり大きな個人差があり中間的な学力の者が少ない。普段の授業で乗りが悪くなりがちなことから,学習への主体的な参加経験を今回の授業でさせることで,これからの授業に生かして欲しいという思いもあり,課題学習を設定した。今回の授業の目標としては,第一に複数の異なる容器を使って一定量を量りとる作業を通して生徒一人ひとりが見通しを立てて取り組めるようにすることと,第2に,その作業手順をを各自なりの考え方としてまとめていけるようにすることとした。また,今回の授業では試みとして,学習形態を普段の少人数授業に限らず,例えば別室でPCを使ってみたり,PCがなくてもグループや個人で考えてみたりすることでさらに興味を持って学習に取り組めるのではないかと考え,それらの学習形態を各自で選べる場面を設定した。授業後の生徒の感想には,「今回,初めて自分から進んで答えを出すことができた。」「難しそうだったが,やってみると意外とできて楽しかった。」「できたときにすごく嬉しかった。」「少しでも計算ができておもしろかった。」などと書いてある。これらの感想などから,当初の目標はある程度達成できたのではないかと思われる。この成果をこれからの授業に役立てていきたいと考えている。
 
授業者T2主に別室のPCで個別指導を行った。実際に教室を移動してきた生徒は11名で,数学が得手不得手の者が混ざっていた。最初は試行錯誤を繰り返すが,最終的にはほとんどのグループが2通り程度の手順を見つけることができた。中には,せっかく見つけた手順を再現できずに困っていたグループもあったが,まったく解決できなかった者はなく,全員が課題解決できたと思われる。
 
 
 
 
質疑・応答
 
 
粟島中(K):本時のPCで活用されていた学習ソフトの名称と入手方法は?
 
答え:もとは大阪書籍の教師用指導書(3年)に添付された教材ソフト「いろいろな量をはかる」だったが,直接使うと表などが表示され,あまりにも親切すぎることから,藤谷先生(香大事務局情報図書課)に作成して頂いた。この学習ソフトは,藤谷先生のウェブページでも公開されているので,参照して頂きたい。
 
 
 
討議(PCを活用することで教科の指導目標を達成しやすくできたか)
 
 
司会:今回は「課題学習」ということで,数学の目標というと,「主体的な学習」とか「数学的な見方や考え方の育成」に(PC活用で)つながったかどうかという観点になるが,どうだっただろうか。
 
長尾中(T):「数学的な見方や考え方の育成」に関しては,1時間の授業だけでは評価が難しいが,問題解決のためにPCを役立てることができたかという評価項目があれば,それなりに達成できたと言えるのではないだろうか。試行錯誤で一度は解決できても再現性に問題があったことについて,その子どもへの援助は具体的にどのようなものであったのか?
 
答え:その手順の記録用に表やワークシートを用意した。PC操作に夢中になり記録まで手が回らず手順が分からなくなった子どもには,途中までの記憶をもとに助言を与え,再試行させ解決させた。
 
長尾中(T):結果としては課題解決はできても,思考操作をどのような形で残させるか,実際の学習過程でそのような過程の残し方が最適化されているのかどうかが問題だと思われる。
 
東部中(O):PCは活用していないが,習熟度別少人数授業で基礎コースを担当しており,思考力と興味づけを目的に同じ教材を扱ったことがある。何回かやれば何とかなるものの,最短の(合理的な)手順となると子どもたちには難しくなる。そのあたりの追究ができている子どもとできないままの子どもがいたと思われるが,実態としてはどうだったのか?
 
答え:記録表を見たが,重複した手順を取った子どもは見当たらなかった。ただ,途中の手順を抜かした記録になっていた子どもが2人ほどいたため助言して気づかせた。
 
 
司会:PCを活用することで,本時では,教科の指導目標達成に有効であっただろうか?
 
( ? ):興味関心を促すためには確かに有効であったと思われる。ただ,実際の容器(桝)を使った実験の提示もあってよかったのではないだろうか。
 
答え:事前に色水を使って他のクラスでやってみた。ただ本時の場合,授業目標として第2の「作業手順をを各自なりの考え方としてまとめていけるようにすること」をぜひ達成させたかった。思考を深めさせるための時間的な制約があり,その実験はできなかった。
 
( ? ):PCを使わずに実際の容器(桝)で授業すると,その容器を傾けて量ろうとする発想も出てくる場合があるがどうだろうか。
 
答え:隣のクラスでそれを行ったら,その発想が最初から出てきた。今回はその操作を制限した形で考えさせたが,図形の性質の関連性からも,その発想は大切だと思われる。
 
沙弥中(F):今回の記録用紙やPC画面では,加える操作だけの思考になる。実際には減していく操作も含めて思考する事ができるのだが,そのあたりの指導はどうなるのだろうか。
 
答え:確かにそのような操作も入れて考えるべきで,そのために容器を象った記録用紙も用意しようとしたのだが,子ども自身の立場で考えると思考操作や記録作業が多岐にわたることになる。思考の焦点を絞らせたいことから今回のような指導内容になった。
 
 
司会:討議時間が残り少ない。PC活用に関するもの以外でも意見を伺いたい。
 
小簑中(Y):授業の後半の学習課題で,子どもたちは1人もPCを使おうとせず,紙と鉛筆だけで課題解決しようとしていた。これは,前半の課題解決にPC活用をした成果だとも受け取れたが,授業者はどう受け止めたか。
 
答え:指導案では,前半と同様に別室でのPC活用を含めた学習活動としていたが,残り時間の関係で,教室移動の必要なPC活用をとりやめた。この後半の学習課題で指導時間にゆとりがあれば,本来はじっくりとPC活用もさせながらしっかりまとめさせたい場面であった。今後の図形(多面体)などの指導でも,話し合いや調べ学習などの場面で子どもたちにいろいろな学習形態を与えて作業させ考えさせていきたい。
 
小学校長:今回の実践は,子どもたちにとって「親切な授業」だった。中学校でも低学年だから適切だと思われるが,高学年に対しては親切すぎることになる。小学生の学び方を観察すると気づかされるが,幼い子どもほど自分で何か具体的に操作して学習する。思考操作からではなく「身体で実感して覚え込む」実体験型の学習スタイルが適していることが分かる。つまり,発達段階に応じて準備された「親切な授業」を考える必要があり,成長に合わせて思考させる場面が増えていくべきだと思われる。本時の課題で再現性を問わないのであれば小学生でも達成できるが,中学生では途中の思考過程が大切にされるべき評価段階だ。教師ががむしゃらに学習教材(思考の手だて)を準備しすぎて,子どもが考えなくてもよいくらいの学習環境にしながら,「考えなさい」では矛盾した話になりかねない。したがって中学校では,考えるための学習環境を前提にして,補足的にそこから漏れた子どもへの手だてを個別につけ加えていくスタイルで授業を組み立てて行くべきだと思われる。