平成21年度 3学期始業式校長あいさつ

今年の成長を祈る

 皆それぞれに有意義な冬休みを送り、新年を迎えることができたと思う。また一人一人が今年にかける目標を立てたと思う。3日坊主という言葉があるように、目標の実現は、決して容易ではない。しかし、いかにすばらしい目標でも、続けなければ意味がない。人間は習慣の生き物と言われており、習慣化すると以外に容易にできる。まずは1週間、次に1ヶ月、そこまでできれば大丈夫。また、挨拶もしっかりしてほしい。挨拶はプラス思考の第一歩。今年の成長を祈る。

科学技術の時代に生きる若者

 さて、昨年の始業式では、私の考えた10年後の話をした。特に、量子コンピューターの話を取り上げて科学技術の話と、そうした時代に生きる若者に求めることを話した。今年も同様な話をしたい。

 昨年末に内閣の「事業仕分け」でスーパーコンピューターの開発について、「なぜ世界一である必要があるのか、二番ではだめか」との指摘がなされ、それに科学者が猛反発をするなど社会的に大きな関心を呼んだ。実は、日本は10年程前は「地球シミュレーター」という世界一のコンピューターを有する国であった。それがここ数年、世界一の座を奪われ低下傾向にある。それを挽回するために開発しようとしたのが問題の次世代スーパーコンピューターであった。コンピューターというのは、いまやすべての科学技術、社会・経済活動の最強の武器であり、日本の誇るナノテクノロジーやライフサイエンス、環境科学の研究・開発になくてはならないものである。これが世界のトップであるか否かは、論文が書けるか否か、特許が取れるか否か、契約が取れるか否か、大変な問題である。

未来のコンピューターといわれる量子コンピューター

 資源も食料もない我が国が生き残れる唯一の道は知的資産、特に科学技術力しかない。幸い、今は基礎体力があるため、自動車、電子機器、情報、新素材などの面で何とか総合的にみて世界の2〜3位くらいの中にはいる。しかし、今後は怪しい。特にこれから世界を左右するといわれる新技術。例えば、未来のコンピューターといわれる量子コンピューター。これができると、現在のネット上で使われているすべての暗号が、軍事機密を含め、あっという間に解読されてしまうとのこと。まさに革命的技術になる可能性を持っている。おそらく、これを制するものは世界を制することになると言っても過言でなかろう。そのため、世界中がこの研究に力を注いでいる。今この研究に参入できるのはアメリカと日本、そして欧州の先進国くらいであろうが、シンガポールやオーストラリアも力を入れている。

日本を取り囲む状況

 しかし、今後の日本を考えた場合、全く安心できない。例えば、スーパーコンピューターについては、幸い研究が継続されることになったが、特にアメリカでは日本の10倍もの資金を投入して主導権をとろうとしている。そして、こうした状況下で何といっても大きな存在は中国である。アメリカには多くの中国人留学生や研究者がおり、その人たちが中国に技術を持ち帰りつつある。また、中国は全体的には開発途上とはいえ、GDPがやがて世界第2位になろうとする経済大国であり、世界の技術を企業買収という形で技術ごと買い取っている。そして、切り札は、国内に豊富にあるレアメタル。今、先端技術を左右するのはレアメタルといわれる希少金属やレアアース言われる希土類元素。日本の誇るプリウスも電池に使うリチウムやニッケル、モーターに使うサマリウムやネオジウムといったレアメタル、レアアースがないと全くお手上げ。液晶パネルもインジウムがなければお手上げ。中国はこれらレアメタルを自国で抱え込み始めるとともに、アフリカなどの外国に対しても政策的に確保を始めている。

日本が生き残る道〜主役は君たちである〜

 こうした、アメリカ、EU、中国といった国に対し、何の資源もない日本が生き残るには科学技術で絶対的な立場を維持すること、特に今後需要の見込まれる環境や省エネルギー、医療の分野で特色を出すことであろう。そして、産業が高度にグローバル化している中で、世界の動きや経済・金融の動向に常に注目しながら、日本の誇る様々な技術を大いに生かしていくための経済活動であろう。そのためには科学技術だけでなく、様々な分野の人間が大いに知恵を出しあわなければならない。その主役は君たちである。

今後の日本を牽引する立派な若者に

 ただ、そのことを考えた時、今の若者に少し気になることがある。それは、最近、今の若者には「グライダー人間」が多いと言われることである。グライダー人間とは自力飛行のできない人間のことであり、学校で張られて受身で勉強することはでき、教えられたことはよくできるが、大学に入って論文を書かすと、自分で調べたり考えたりすることができず、立ち往生する人のことである。グライダーとしては優秀でも飛行機としてはまったく能力がない。人間にはグライダー能力と推進能力があり、グライダー能力が知識を吸収することに対し、推進能力は自分で考え、発見すること。もちろん、推進能力だけがあっても、どちらに飛んでいくかわからず、危険極まりない。両方が必要。グライダー能力の育成は学校の指導についていけばできるが、推進能力の育成は、何事にも関心や意見を持ち、調べようとする姿勢がなければできない。推進能力とグライダー能力がひとつになってはじめて優れた飛行機能力となる。これからの社会で必要とされるのは間違いなく優れた飛行機能力。君たちには、残念ながらグライダー人間としての意識しかない者も多い。今後、前向きな探究心や問題意識、苦しいことにも耐える辛抱する気持ち、つまり強い推進能力を持った優れた飛行機人間として成長し、今後の日本を牽引する立派な若者になることを大いに期待する。

校長 島田政輝
(2010.01.08)

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Last-modified: 2010-01-08 (金) 12:17:44