校長室より

「人道教育プログラム」について

2022年12月23日 18時43分

(全日制 冬休み前講話より)

 今年度、本校では「人道教育プログラム」を始めています。これは、三菱みらい育成財団からの助成を受け、『杉原千畝・幸子氏から広がる人道の輪~高校生同士の交流が世界へと繋がる~』というテーマで令和6年度まで三年間継続する計画のプログラムです。

杉原千畝さんは、明治33年に岐阜県で生まれた外交官で、第二次世界大戦中にリトアニアの領事館に赴任していた際、ナチスドイツの迫害から逃れてきたユダヤ系避難民に対して、日本の外務省からの訓令に反して通過ビザを、記録が残るものだけでも二千枚以上の大量に発給することで、実際には四千人とも六千人ともいわれる避難民の命を救ったことで知られています。残念ながら日本での知名度は、昭和61年にご逝去されて以降に高まった感がありますが、それ以前にイスラエル政府から表彰されるなど、海外では早くから尊敬される存在でした。

この千畝さんの妻であった幸子さんは、大正2年に静岡県の沼津市で生まれましたが、父親が現在の香川県立志度高校の校長先生だった関係で香川県に住んだ時期があり、実は本校の昭和6年の卒業生です。千畝さんが自分の生命も顧みずにユダヤ系避難民にビザを発給したことには、幸子さんの精神面での支えがあったと言われています。また、千畝さんが亡くなった後に幸子さんが書いた手記『六千人の命のビザ』によって、日本国内のテレビドキュメンタリーや演劇などで取り上げられるようになり、多くの日本人が千畝さんの功績を知ることとなったといっても過言ではありません。

今回のプログラムでは、千畝さん・幸子さんの業績をたどることを通じて、「国際平和」や「人道」について学ぶために、ユダヤ系避難民の足跡を尋ねるとともに、千畝さんの母校である旧第五中学校、現在の愛知県立瑞陵高校の高校生との交流を図っています。今年度はすでに、8月に福山市のホロコースト記念館の訪問、10月に神戸市にある神戸ジューコム跡地などの訪問を行いました。瑞陵高校とは、3月と11月のオンライン交流を経て、いよいよ来週、28名の1・2年生が一泊二日で愛知県を訪れる予定です。

ちなみに二年目の来年度は、幸子さんの生誕110周年もあって活動を更に広げ、8月に東京のイスラエル大使館、3月にリトアニア大使館を訪問する予定です。また、本校の文化祭が創立130周年記念の文化祭になることもあって、千畝さん・幸子さんのお孫さんにあたる杉原まどかさんをお招きしての講演会も計画しています。瑞陵高校へは来年も12月に訪問をする予定ですが、今度は沼津へも足を延ばして、沼津の高校生との交流や沼津市長の表敬訪問を行う予定です。

そして最終年度の令和6年度には、本国イスラエルまたはリトアニアへの海外訪問を中心に、二人の功績をまとめる計画です。大切なのは、この二人の物語を調べることで、広く人権についての知見を広げ、それをプログラムに参加した生徒から他の高高生に、そして他校の高校生に広げて行くことです。高高から香川県全体に人道の輪が広がることが目標であり最大の成果だと考えています。

高高生には将来、社会や地域のリーダーとして人をまとめたりプロジェクトをけん引したりする人材が多いと思っています。また、家庭においても、家族の幸せや豊かな生活を支える人材であって欲しいと思います。だからこそ、生徒の皆さんには日々の授業や学習の積み重ねから高い学力を獲得することと並行して、豊かな人間性、他者のことを慮ることができる想像力、鋭い人権感覚なども身に付けてほしいと思います。今回の「人道プログラム」を高松高校として始めるにあたり、校長としては高高生の「人として」の部分の成長にきっと役立つものになると考えました。生徒の皆さんには、部活動があって参加が難しい時や、卒業までに間に合わないという事情もあるでしょうが、自分なりの方法で今回のプログラムを受け止め、しっかりと利用して、「人として」の部分に役立ててほしいと願っています。