第16回 ミーモの「ひな鶏のデビーク」

今日はミーモが動物科学科に専攻の授業を見に来ています。

ミーモ「養鶏の先生が『9月の下旬に雛が来るよ』って教えてくれたけど、そろそろ入っているかなぁ。…先生!」

養鶏の先生「やぁ、ミーモ。どうしたの?」

ミーモ「この間言っていた、養鶏部門の雛って、もう鶏舎に入ってきたんですか?」

養鶏の先生「ついこの間入ってきたばかりだよ。今日は『デビーク』という作業をするんだけど、ミーモもやってみる?」

ミーモ「はい、やってみます。」

…ということで、今日は養鶏の専攻生と「デビーク」をやってみます。
長靴を消毒して、養鶏部門の管理室にやって来ました。

先生「それでは、ここでこの長靴と白衣に着替えて下さい。」

ミーモ「はーい。」

ミーモは履いてきた長靴を鶏舎用の長靴に履き替え、実習服の上着を脱いで白衣に着替えました。同じように鶏舎用の白衣に着替え長靴を履き替えて集合した専攻生に、先生が今日の作業について説明します。

デビーク①.png

先生「今日はデビークをします。ところでみんな、雛がやって来て今日で何日目かなぁ?」

専攻生「…何日やっけ??…えーと…」

先生「今日で、ちょうど10日目です。みんなアニマルウェルフェアって言う言葉は聞いたことありますね。意味は知っていますか?」

専攻生「家畜を飼育するときに虐待してはいけない、っていう意味です。」

先生「そうですね。『動物福祉』と言われます。鶏舎のように密集した環境ではどうしても、鶏同士がくちばしでつつき合います。そんな鶏が、とがったくちばしでお互いを傷つけ合うのを防ぐために、今日はデビークをします。昔はくちばしを焼き切っていましたが、大きくなった鶏の硬いくちばしを焼き切ると、出血してかわいそうだし、それが原因で死んでしまう個体も出てきます。近年、アニマルウェルフェアが盛んに言われるようになりました。ヨーロッパでは特に厳しくて、雛を10日以内にデビークしなければいけないという決まりがあります。そこで、今日はみんなにデビークをしてもらいます。みんな、もう2回目だから大丈夫ですね?」

専攻生「はい!」

先生「それでは、準備にかかります。昼までに終わらせるから、テキパキ動いて下さい。」

育雛舎に移動すると、ケージにたくさんの雛が入っていてピヨピヨとかわいらしい声で鳴いています。


ミーモ「うわぁ、かわいいなぁ。たくさんいますね。全部で何羽いるんですか?」

先生「520羽です。ここまで順調に来ていて、まだ1羽も減っていません。」

ミーモ「これを全部デビークするんですね。」

先生「はい。4段あるケージの3段を使って今飼育しているんですが、一段に約180羽の雛がいます。」


ケージでみんなが手分けして作業を進めます。

先生「それでは、まずケージの奥に雛をすべて集めて下さい。」

専攻生が金網を軽くたたくと、雛たちが一斉にケージの奥に移動しました。先生は、雛がまた元の場所に戻らないようにケージの中程の所に仕切りを入れて雛を一カ所にかためます。

先生「それでは、扉を開けて箱の中に雛を入れて下さい。雛が押しつぶされないように、優しくな。」

専攻生たちはケージの奥の扉を開けると、外に出ようとする雛を箱の中に入れ手早くフタをします。

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箱がいっぱいになるとフタをして、次の新しい箱に雛を入れます。作業を繰り返すこと数回で、1段目の雛がすべて箱に収まりました。

先生「それでは、上の段の奥の場所の掃除をして下さい。」

専攻生は雛たちの糞を手ぼうきで掃いて集め、上の段の糞を取り除きました。

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雛が入った段ボールの箱を机に移動し、いよいよデビークを開始します。

先生「それでは最初にする人は、誰ですか?」

専攻生「…」

先生「今日は全員に作業してもらうよ。最初の段は誰がする?」

専攻生「はい、僕がやります!」

デビーカーは2台あるので、2人の男子がまずは上の段の雛のデビークをすることになりました。生徒は3人で1チームを作りそれぞれが「箱から雛を出して渡す係」「デビークする係」「デビークが終わった雛をケージに戻す係」を担当して作業を進めます。

先生「デビークする2人は雛を持つ方の手に軍手をはめて下さい。雛の持ち方はいいですか?人差し指を下顎に当ててくちばしが開かないようにする。親指で頭の後ろを押さえて…そうそう、できていますね。」

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専攻生は雛を押さえて機械の穴にくちばしを入れ、雛を少し回すように動かすとすぐに機械から離します。その間およそ2~3秒です。

ミーモ「先生、デビークが終わった雛を見せて下さい。」

先生「こんな感じですよ。」

見ると、くちばしの周囲にぐるりと焼き印が入っています。

デビーク⑩.png  デビーク⑪.png

ミーモ「こうしておくと、このあとどうなるんですか?」

先生「雛が大きくなると、くちばしの先の部分がポロッと落ちます。この焼き印の先の部分ですね。」

ミーモ「くちばしの先がとがっていなくても、餌は食べられるの?」

先生「はい。ただ、デビークがちゃんと出来ていないと、例えば上くちばしだけが長くなったり、左右に曲がってしまうと、その鶏は餌がうまく食べられなくて弱って卵を産まなくなってしまいます。このデビークという作業は今後の成長を大きく左右する重要な作業なんです。下側が少しが長い、いわゆる「受け口」気味が理想です。…おい、少し下のくちばしの左側が弱いよ。ちょっと意識してやりなさい。」

専攻生「はい。」

デビークが終わった雛は先生が確認してケージに戻します。戻すときにカウンターで数えて、ケージにばらつきがないか確認します。

デビーク⑫.png  デビーク⑬.png

ミーモ「ケージに戻った雛が、お互いのくちばしをつつき合ってていますね。」

先生「そうですね。お互いのくちばしが気になるのかもしれませんね。特にこのあとは、ケージの様子を観察して、デビークのストレスで弱った雛がいないかチェックするのが大切なんです。」


ようやく、1段目の雛のデビークが終わりました。カウンターの数字を記録し、2段目、3段目を同じ要領でデビークしていきます。



3段目の作業も終わりかけ、残りが1箱になりました。

先生「せっかくだから、ミーモもデビークやってみる?」

ミーモ「はい、やってみたいです!」

ということで、専攻生にいろいろと教えてもらいながらミーモもデビークをやってみました。

ミーモ「難しいなあ。雛の持ち方はこうかなぁ…この穴にくちばしを入れて、クルッと動かして…これで出来てる?」

専攻生「うーん、下のくちばしがちょっと…口が開かないようにして、まっすぐに…そうそう、そんな感じだよ。」

ミーモ「むずかしいなぁ。…今度はどう?」

専攻生「うん、まぁまあいい感じだよ。」


なんとか520羽の雛のデビークを終えました。デビークを終えた雛たちは、まるで何事もなかったように、ピヨピヨとさえずっています。

先生「それでは、次は給餌と水やりをしてください。」

専攻生は慣れた手つきで餌を量ってボウルに入れ、それに水を加えて軽く混ぜ、食べやすい堅さになったら、ケージの奥の扉を開けて餌をばらまきます。

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デビーク⑯.png  デビーク⑰.png

ミーモ「ケージの横の餌箱に餌を入れてあげないんですか?」

先生「まだ雛が小さいから、首が届かないんです。だからこうして床にまく『ばらまき』という給餌の仕方をします。均等にばらまかないと強いひなばかりが食べて小さい雛が弱って死んでしまいます。もたもたしていると、あんなふうに餌のボウルに雛が群がって身動きがとれなくなってしまいます。最初に奥の方に投げて雛の気をそらして、そのあと手前にまくのが、均等にばらまくのがこつです。」

ミーモ「さっきデビークの時も、まるまる太っているのもいれば、まだ羽がかわいらしい小さい雛もいましたね。群れで見ると分からないけど、一羽一羽手に持ってみるとその差がよく分かりました。ところで、ケージの真ん中にあるピンク色の水はなんですか?」

先生「あれはビタミン水です。」

ミーモ「ふーん、水からも栄養補給するんですね。」

そうこうしているうちに専攻の時間が終わりに近づきました。先生が専攻生を集めて、今日の作業の振り返りと今後の雛の管理について説明をしました。

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ミーモは「今日は勉強になったなぁ。作物でも『苗半作』って言う言葉があるけど、養鶏も、雛のこの時期ってすごく大切なんだなぁ」と思いました。