第9回 留学体験記
2025年11月14日 18時57分
十月に入ってから、否が応でも帰国を意識せざるを得なくなってきた。今までは余裕をもって学習を進めていたり、友達と遊びに行ったりしていたのだが、どうにも落ち着かなくなっている。これを一過性のものだと受け流すためには時間が足りず、精神的なものだととらえるには人生経験が足りていない。焦ってもしょうがないのだけれど、留学という貴重な機会をなんだか無駄にしているような気にもなってしまい、悶々とした日を過ごしていた。
今月はいろいろ書きたいことがあるので、見出しごとにまとめてみようと思う。気になったものだけ読んでもらえれば幸いだ。
・スペイン語の試験について。
一応、先月にも書いたようにスペイン語の試験(CELU)を受けることにし、かなりの時間集中していたことによって落ち込む回数は減っていた。試験内容としては、初めに口頭試験があり、それに合格すれば筆記試験を受けれるというもので、スペイン語の先生と二か月近く練習をしたことによって、ある程度の自信を持てるようになった。
ただ、口頭試験においては事前知識の関係で何を言っているのかさっぱりなことも多々あった。進行は英検と似ており、データや広告が載った一枚の紙について紹介し、そこに自身の意見を付け加えていくという形式であり、足切りとして「口頭試験で中級に達していないと判断された受験者は筆記試験に臨めない」というシステムもあり、どの程度の語彙やどこまでの具体性で話せれば『中級』なのかということに悩んでいた。
そして私の試験は10月27日に行われ、テーマは各国の旅行者数のランキングだった。内容は理解しやすく、自身の立場もあってある程度話せたと思った。簡単な文章ばかり話してしまったのが唯一の心配だったけれど、結果が分かるまで数日必要だったこともあって、あまり考えないようにしていた。
結果が分かったのは31日、ハロウィンの準備を友達としていた時にリンクが届き、ドキッとしながら番号を探した。結果として、自分の番号の隣には"No aprobó" (不合格)と書かれていた。机に突っ伏してため息を吐いてから色々考えだした。「だめだったのか」、「もっと語彙を使えていれば」、「八か月も経って自分は中級にすら達していないのか」、「ここの家族に申し訳ない」。特に最後の考えが大きかった。私のスペイン語のレベルが低いことを、ここの家族が責めたことは一度もないのだけれど、八か月もここで暮らさせてもらっているのに、お返しがあまりできていないように感じていたのがここにきて露呈したのだと思う。友達はそんな様子を見て励ましてくれたが、やっぱり突き付けられた事実のほうが強かった。ズーンと心にのしかかる、そんな気持ちのまま、友達と彼の姉と一緒に被り物を作った。少しでも挽回しようと、できるだけ自分から話を振るように意識していたように思う。
それから一週間ほど経って、先生とも話していると、自分のこの二か月は無駄ではなかったのかもしれないと思い出した。もちろん、結果がついてくることが素晴らしくて目標に合致したものだとは思うけれど、かといって成果ゼロということでもない。すこし前の自分(今もかもしれない)だったら、目標を達成できずに過程から成果を見つけようとする行為を「逃げているだけだ」と思っていただろう。ここまでの文章が言い訳にも見えている。だけれど、そういう風に揶揄してくる自分はいつも、なにか達成できなかったときの自分なのだ。結果だけを求めていると、その過程になにか価値のあるものを忘れてしまうのかもしれないと、そう思ってあげることも必要だろうか?
まぁこの考えも、目標を達成できなかった私が思っただけなので説得力はないし、前述のとおり人生経験のない若造が言っているだけなのだが笑。
帰国後はまず、DELEのB1に挑戦してみようかと思う。先生からB2の証明書は頂いたが、まだまだ実力不足だ。これをスタートにするのもいいかなと思う。
・ピザ作りと勘違い
スカウトに所属していることは以前から書いているので説明は省かせてもらう。今月の主な活動は、ピザにトマトソースを塗っただけの"Prepizza" というものを作って教会の前などで売るというものだった。(この"Prepizza" は音としては、プレピッサになるが好みじゃないのでこっちで書かせてもらう。)
"Prepizza" の利点として、家庭ごとに好きなようにアレンジできるというものがある。チーズやサラミ、追加のトマトなどをのせてオーブンで焼けばいいだけなのだ。私の好みはじゃがいも、ベーコン、チーズが乗ったアレ。名前は憶えていない。
さて、当日はピザ作りのために朝8時から集まる予定だったが、バスが遠かったことと身支度のために30分ほど遅れて着いた。Googleマップの示す場所に着き、ほかのメンバーの声が聞こえてくる場所を見つけた。しかし入口が分からない。朝に住宅街で叫ぶわけにもいかない上、メッセージを送ってもピザ作りに集中していて返信は来なかった。そのため、とりあえず可能性の高かった、開いていた門からお邪魔したのだ。
門を通って裏庭らしき場所に入り、塀越しにみんなの姿が見えた。声をかけたが聞こえていないようだった。何度かジャンプしたり名前を呼んだりしていると、うち一人の友達が気づいてくれた。以下はその時の会話。
私「おはよう。どこから入れば良い?」
友達「え?ああ、おはよう。どこから入ったの?」
私「そこの開いている扉から……。ここのドアってそこと繋がっているんじゃないの?」(左の、壁に沿うように設置されてある扉を指さす)
友達「え、そこは……」
家の持ち主「(そのドアを開けて)どちら様?」
私「え、ここってそこの家の入口じゃないの?」
友達「うーん、違うね」
その後、他のメンバーに爆笑された。持ち主には友達から説明をしてもらい、そのまま塀を乗り越えさせてもらった。ピザ作りは順調に進み、計7枚ほど広げたと思う。
丸生地のピザを広げるのは初めてだった気がする。先に来ていたメンバーが材料をすでに混ぜ合わせていたので、生地を広げるだけだったのだが、時間が経つごとにだんだんと硬くなり難易度が増していった。もちろんピザはピザ窯で。
昼食にはそのピザとパスタを少し食べ、その日は夕方から別の用事があったので、一人早めに帰った。
・チェス大会
十月の半ばにはチェスの大会があった。中高生が100人ほど集まってそれぞれ五試合行った。初めに述べておくと私の戦績としては、一勝三敗一引き分けという、なかなかなボロ試合だった。ただ、初めての大会参加として一回でも勝てたのは良かったかなと思う。もともとチェスの遊び方は知らなかったがここに来てから、家族や友人とのコミュニケーション手段として始めた。オープニングを崩されたときや、取った駒を再利用できない仕組みには歯がゆい思いをするが、チェッキングやクイーンのあまりの強さには驚かされたし、歩兵でも陣を組むことでかなり役立つのは非常に面白いゲームだと思う。将棋のルールに似ていたのですぐに覚えられたことも幸いだった。
今回の大会において悔しかったのは最後の一戦で、盤面上ではかなり押せていたのだが、時間切れになって負けてしまった。ボタンを押すことに慣れていなくて、相手のターンになってから押してしまったり、もともと時計が壊れていたこともあり、かなりロスしたのかもしれないと思う。ああ、惜しかった……。
十一月にも校内で大会があるため、次こそは、と練習を重ねている。
・留学生同士の交流会
メンドーサ州への旅行から帰ってきた日の夜、サンフアンに来ている留学生で集まって夕食を食べることになった。八月に新しく夏組の留学生が来たので、一度全員で集まって連絡先を交換したり親睦を深めようというものだった。
さてここでまた一つ問題があった。私が場所を見間違えたことで気づけばWi-Fiの安定しない6kmほど離れた場所に来てしまっていた。原因としては同じ名前の地区が二つあり、バスアプリでは全く違う場所が示されてしまっていたことだった。着いた後であまりに違う場所であることに気づき、電話をかけた後近くにいた人と雑談しながら待つことにした。十分後に友達のホストファミリーの方が車で迎えに来てくださり、無事に(問題はあったが)着くことが出来た。その後は布団を取りに行くのを手伝ったり、チョリパンを美味しくいただいたり、ビンゴをしたりした。
実は、冬組として現在残っているのは私だけで、ほかのみんなより一番長くここに滞在している。しかし、やはりというべきか、私よりスペイン語が上手な人のほうが多い。ポルトガル圏の留学生はほぼ普通に話せるし、イタリアからの留学生もかなり速いスピードで習得している。それに驚くとともに嫉妬した。
まあ、何はともあれその夕食会はとても楽しかった。帰るバスがなかったのでそのままそこに泊めさせてもらい(こうなるだろうと思って寝袋を持っていた)、次の日の朝に送ってもらった。そのホストファミリーの人とも連絡先を交換し、今度一緒に寿司を作ることになった。
・今月のまとめ
主に試験に向けて物事を進めていて、時間が経つのがあっという間だったように感じる。スカウトの活動もいくつか本格的に始まり、面白くなってきたところだ(メッセージを確認するのがかなり大変だけれど)。
残りの期間をどう過ごすのかはもう決めてある。今の友達とゆったり、だけれども大事に過ごして、家族にも料理やなんらかのイベントを通じて感謝を伝えれたらな、と思っている。(例えば、この間鉱物の皿うどんを作りここの兄妹と一緒に食べた。兄のほうはかなり気に入ってくれた。)
誕生日を迎えたら、ワインセラーを見に行きたいと思っている。サンフアン州やメンドーサ州はワインの質が高いことで有名であり、ブドウ畑もよく見かけられる。近年はその規模は減少気味だというが、それでも広いことには変わらないので、そこから作られているワインはどんな香りがするのかが興味はある。
では、また来月に。


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