活動記録

「第47回毎日農業記録賞」高校生部門で優良賞を受賞

2019年11月16日 20時26分
 「農」「食」「農に関わる環境への思いや提言をつづる」「第47回毎日農業記録賞」(毎日新聞社主催、農林水産省・県・県教育委員会など後援、JA全中など協賛)高校生部門で、香川県からは高校生部門で本校3年、籠池良太君の「稲穂の海原を守りたい~父から私へ、そして次の世代へ~」が、中央賞の優良賞に輝きました。また、本校3年の高木愛優子さんの「イタリア・パルマ市で感じた、これからの日本農農業について」と、本校2年の酒樋彩花さんの「食と農から学んだこと」が地区入賞の支局長賞に選ばれました。
 中央賞「優良賞」に輝いた籠池良太君の作品を紹介します。

稲穂の海原を守りたい

~父から私へ、そして次の世代へ~

香川県立農業経営高等学校 

農業生産科3年  籠 池  良 太

 私の将来の夢は、地域を支える農業経営者になることです。

 私が住んでいる地域では、野菜よりも稲の作付け面積が広いです。私は、幼いころから、毎年10月上旬になると、窓から見渡すかぎり黄金色に輝く稲穂の海原が、日に日に深みを増していくのを見てきました。しかし、年々、その海原が、だんだんと小さくなっているような気がします。それは近年の農業従事者の減少や高齢化が影響しているのかもしれません。実際に、私の近所にも、田畑を貸しますという人や、ただでもいいから使ってほしいという人が増えてきました。

 そのような中、私の家にも転機が訪れました。5年前、とうとう私の父が、高齢になった祖父母の後を継いで兼業農家になりました。当時三反で始めた稲作は、近所の人たちから任された土地が加わって、昨年は一町六反になりました。面積が大きくなれば、作業を効率化することが必要です。現在は父一人ではなく、家族四人と祖母、時々お姉ちゃんでしています。父は一昨年、新しく倉庫を建てて、その中にコンバインと乾燥機を1台ずつ増やしました。退職したら専業農家になると決め、今から着々と準備を始めているのです。一町六反で収穫されたお米の行き先は、知り合いの人と給食センターへと売られています。しかし、肥料代や苗代が多くかかり、売り上げの約六割が来年用に繰り越されます。そのため米は一町六反の栽培面積であっても、苗代や肥料代が多くかかるため中々、稲作だけでは利益を上げることが難しい状況にあります。

 そんな父を支えたいと、背中を追うのではなく、肩を並べられるよう色々な知識を得て、それを生かしながら父を追い越すいきおいで頑張りたいと考えて、私は農業を学べる農業高校に進学しました。我が家の農業の中心は稲作。美味しくて、収量の多い稲作について学ぶのはもちろんですが、稲作以外に、他の作物で利益を生むことを研究したいという強い思いが、私にはありました。そんな中、私が師匠と仰ぐ野菜の先生から「それなら、単位面積あたりの収益が高い野菜がいい」とアドバイスをもらい、トマト栽培にたどり着きました。トマトは周年栽培が可能で、空いた時期、時間に手入れ、栽培することにより、多面的な利益が生まれると考えました。また晴天の多い香川県の気候は、トマト栽培に適しています。また、甘みが増したトマトは、今や小学生が好きな野菜第一位。私は香川県でのトマト栽培に、可能性を感じ、2年生になってすぐに研究を始めました。6月から9月にかけては、香川県の特産品であるうどんの製造から得られる塩分とミネラルがたっぷり入ったゆで汁を使ったトマト栽培に挑戦して、糖度や生育を調査しました。結果として、ゆで汁をかん水していないトマトの糖度は、8.5度、ゆで汁を散布したトマトの糖度は7.5度と、ゆで汁をかん水していない方が、糖度が高いという結果が出てしまった。しかし、ゆで汁をかん水しているものの食味としては、食べ始めの一口目と終わりの方に甘味が出て、後味もよく、実の中はほどよい柔らかさであったのに対し、対象区のゆで汁をかん水していないトマトは、実の中の酸味が強いが水分が少なく、瑞々しさが感じられなかった。ゆで汁をかん水したトマトの糖度が低かった理由としては、ゆで汁をかん水する量が多かったからではないかと思われる。他のトマト栽培農家の話を聞くと、実がついてきたら、水やりの回数を減らすことにより、トマトは水分を欲しがり、糖度が高くなるとのことでしたので、様々なかん水条件を試して、塩分とミネラルが多いうどんのゆで汁を有効活用したかったのですが、画期的な結果は得られませんでした。さらに研究を深めるつもりです。現在は、トマトの第1花房下のわき芽と第3花房下を伸ばすことによって単位面積当たりの収量は変わるのか、また露地とボックス栽培でどのような変化があるのかを調べています。結果として一花房下わき芽をのばすと実がたくさんつくので、収量が上がりました。順番的には第一花房、第二花房、第三花房と同じに収量は第一花房下のわき芽を伸ばす方が多いことが分かりました。その理由として、根っこに近く下から上へと栄養が送られ、一番最も実が熟すのが早いのではないかと考えています。作業をしていてのデメリットは誘引が大変で、わき芽をのばすと他のわき芽と調べているわき芽が分かりづらくなったところでした。ボックスは根域が制限できて、良い結果が期待されましたが、サビダニの発生により、いいものができなかったことが残念でした。自分の将来のトマト栽培に役立てたいと思います。

 毎日のトマトの管理は、朝、登校前に、学校の農場でしています。朝、農場に行きはじめて約2年6か月が経ちました。始めは、私一人だけで行っていた作業ですが、少しずつ仲間が加わり、今では専攻生や手伝いに来ている2年生二人も加わりました。朝、一番に挨拶を交わすのは、その仲間と野菜を指導してくださる師匠。師匠からは「野菜への愛が足りない」と叱られてばかりですが、技術や知識だけでなく、心構えも学んでいます。その意味が師匠を見ていたら少しずつ分かった気がします。きっと作物への手入れを食べてくれる人を思いながら1つ1つていねいに栽培しているから師匠のトマトはそれほどおいしくなっていると思います。

 そして、8時10分に鳴る師匠の腕時計のアラームで、作業終了!私たちの登校の合図になっています。これを卒業まで続けていくことが、自分の力になると信じて。

 私は高校を卒業したら、農業専門学校へ進学し、野菜についてもっと詳しく学びたいと考えています。その後は農業法人や農業協同組合に就職し、技術を身に付けた後、自ら農業法人を立ち上げ、一つの夢に向かって一緒に働いてくれる、若者の集まる場所にしたいです。若者には、私自身がそうであるように、農業を通してさまざまなことを体験し、多くの人とつながり、人生を豊かにしてほしい、そして地域の農業を一緒に支えてほしいと思っています。

 これから先は外国から安価な農作物が買えるようになろうとしています。日本の農業は、何を目指していけばよいのか。その答えとして私は、消費者の安心安全を一番に、生産者の顔が見える農業を目指すことだと考えます。さらに、地域の農業の活性化と、地産池消の推進だと考えます。今では、私も父の稲作を補助できるように、2台目のコンバインは私の専用です。先祖代々、受け継がれてきた土地で、地域の農業を決して絶やすことなく、農業を続けていきたいです。

 以前の農業のイメージは汚い、危険、きついこのイメージだったが、実際にしてみると、色々なことを経験できて色々な人とつながって自分の人生の足しになることが1つでも見つけることができたらうれしい。それを子ども達に知ってもらい感じてもらい、「農業っていいんだな。」ということを広めていってほしいです。

 特に、地域の子どもたちに、幼いころから稲作の風景や地産地消の食育を通して、郷土を愛する心を育むことができればいいなと考えています。そして、私と私のもとに集まってくれた若者が、地域の中で日常的に農業に取り組む姿を見て、農業に夢を持つ子どもたちになってほしいと思います。父の背中と窓から見える稲穂の海原を見て育った私のように。