校長からみなさまへ

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2020年6月18日 18時08分

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<小学部でおはなし会がありました>

 

今日6月18日の5校時、小学部のおはなし会で絵本の読み聞かせをしました。先週の8日に、小学部の図書係の児童から、3冊の絵本を読んでほしいと依頼されていたのですが、今日がその本番でした。おはなし会に参加してくれたのは、小学部3、4、6年生がそれぞれ1名ずつ、合わせて3名の児童と担任の先生方でした。

最初に読んだ絵本は『とんとん とめてくださいな』(文・こいでたん、絵・こいでやすこ 福音館書店)という絵本です。ハイキングに出かけた3匹のねずみが森の中で道に迷ってしまい、日もとっぷり暮れて霧も出てきたので、森の中で見つけた一軒の家にお邪魔することになりました。「とんとん、とめてくださいな。」とドアをノックしても中には誰もいません。疲れていたねずみたちは、その家で一晩泊めてもらうことにしました。ねずみたちがベッドにもぐりこんでいると、外から足音が聞こえて、「とんとん、とめてくださいな。」と声が聞こえ、そっとドアを開けて入ってきたのは、道に迷った2匹のうさぎでした。次に道に迷ってやってきたのは、3匹のきつね。そして最後に家に入ってきたのは、黒い大きな熊、みんなは震え上がりましたが、実はこの家の優しいくまおじさんでした。くまおじさんは、道に迷ったひとを助けるのが仕事。人でも動物でも見かけで判断してはいけないこと、また「とんとん、とめてくださいな」というリズムのある繰り返しの言葉が心地よい絵本でした。

視覚障害のある児童には、点字付きの絵本や立体絵本、触素材を使った絵本などがありますが、通常の絵本を使った読み聞かせも行っています。絵本の楽しさは、やはりそこに描かれた「絵」にありますが、文の表現も豊かで精練されていて、ひと言ひと言に深みがあります。文だけでも十分にストーリーが分かる絵本もありますが、最小限の文だけのもの、中には擬声語や擬態語のみで、「絵」だけで楽しめる本もあります。全盲の児童に絵本を読むときには、「絵」で描かれた情景や登場人物の表情などに説明を加えることがあります。少し説明があれば情景や表情などが思い描きやすくなり、想像力も広がります。しかし、「絵」を説明しすぎると文の流れや調子、音韻が止まってしまいます。その加減が難しい。読み手も繰り返し繰り返し子どもたちの前で経験を積むことで、子どもたちの表情や反応を楽しみながら、その技術を磨くことが求められます。

そのほか今日は、『おこる』(作・中川ひろたか、絵・長谷川義史 金の星社)、『ちくわのわーさん』(作・岡田よしたか ブロンズ新社)の2冊を読みました。さて、今日の子どもたちの反応は…。みんな耳をしっかり傾けてくれて、まだまだ力不足な私の読み聞かせを表情豊かに聞いてくれました。タイムリーな子どもたちの反応にときどき脱線しながらでしたが、子どもたちも楽しめたようでホッとしました。子どもたちの想像力、それは空想の世界かもしれませんが、無限に広がっていると思います。この想像の世界があるから、子どもたちはそこでいっぱい遊び、想像力を身につけ、心が豊かになっていきます。この経験が、大きくなって「生きる力」につながっていくのではないでしょうか。

しかし、それがだんだん年齢を重ねていくと、現実の世界でしなければならないことが増えて、想像の世界を楽しむ時間や余裕が減ってきます。いま、大人も含め、「想像力の低下」とか、「想像力の欠如」が言われています。大人こそ絵本を読んでみる、難しいことは考えず絵本の世界にどっぷりつかってみる、絵本の魅力を見直してほしいなあと思います。

今日の楽しいひと時をくれた子どもたちや担任の先生方に感謝です。ありがとうございました。

 

令和2年6月18日

香川県立盲学校長 田中 豊