校長からみなさまへ

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2020年7月10日 21時25分

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<福祉サービス事業所体験実習にチャレンジ>

 

7月8日から3日間、高等部普通科3年生徒1名が、卒業後の進路選択を目的として障害者福祉サービス事業所で就業体験に取り組みました。場所は木田郡三木町井戸にある「いっぽ」というところです。「いっぽ」は、「一般社団法人あ・うん」が運営する、昨年9月にオープンしたばかりの生活介護のサービスを提供する事業所です。「一般社団法人 あ・うん」そのものが、昨年4月に登録した新しい法人で、居宅介護事業所「ありがとう」の設立を皮切りに、9月にはこの「いっぽ」、12月には地域活動センター「ありがとうZ」を設立するなど、事業規模を広げています。

今日、7月10日、進路指導主事の車に同乗し、実習へのお礼方々、「いっぽ」で頑張る生徒の様子を見学させてもらいました。さぬき新道(県道13号線から279号線に入る辺り)を東に向かって進むと右手にローソン三木町井戸店があり、その交差点を南に少し入ったところに、「いっぽ」はあります。一見すると昔ながらの大きな民家といった感じで、周囲の田園風景に溶け込んで優しい雰囲気を醸し出していました。この民家の中身を改修し、元々納屋であった建物には車いすの方でも利用できる広い空間を確保し、古民家の良さも残しながら落ち着いた感じの建屋となっていました。新規の障害者支援施設は、建物を新築して開所することが多い中、こちらはリノベーションにより、障害のある人々も地域で当たり前に暮らせるよう配慮した場所といった印象でした。

本校の生徒も初めての実習先でしたが、訪問時には入浴サービスを受けたあとで、この場にすっかりなじんでリラックスした様子でした。支援員の方も本人の意思を尊重し、伸び伸びと充実した時間をすごしているようで安心しました。ちょうど、香川中部養護学校の高等部3年生も実習中で、私も知っている生徒でしたので、挨拶をするとにこにこして返事をしてくれました。思わぬ出会いに、心が温かくなりました。

さて、この法人の「あ・うん」という名称について個人的に興味がありましたので、代表理事の高橋さんに命名の由来を聞いてみました。「あ・うんという法人名にしたのは、物事の最初は『あ』で始まり、最後は『うん』で終わります。最後まで障害のある方とともに歩みたい、我々と利用者さん、利用者さん同士が息を合わせて活動していくことを理想とする施設でありたいという願いからです。」とのことでした。ついでに、居宅介護事業所の「いっぽ」や地域活動支援センターの「ありがとう」という名称についても、平仮名にこだわったことと普段何げなく使っている言葉を大切にしたいという思いからその名にしたようでした。高橋さんと直接お話したのは初めてでしたが、15年ほど前に私自身も中部養護で進路指導主事をしていたことから様々な就労支援の施設等を回っていましたので、その時にお顔は拝見した記憶があり、話も盛り上がりました。いろいろなご縁を大切に生きていけば、幸せな時間が持てるのだなあとあらためて思いました。

仏教でいうあうん(阿吽)とは、「阿」がものごとの始まり、「吽」がものごとの終わりを意味すると言われています。人間はおぎゃーと声を発して生まれてきて、最後にはうんともすんとも言わなくなって呼吸を閉じて死んでいきます。阿吽とは、生命の一生を表す言葉でもあり、人間も生まれたからにはいつかは死ぬという理を表しているとも言えます。死に向かって今を生きていることは誰もが分かっていることですが、生に執着して一生懸命生きるのも人間です。生きていると苦しいこともたくさんありますが、楽しいこともたくさんあります。生きるとは一切皆苦、とお釈迦様は言いました。お釈迦様のように、生きることは諸行無常であり、諸法無我であることを悟り、涅槃寂静に至ることができればいいですが、なかなか難しいですね。「いっぽ」を訪問したあと、そんなことも考えました。

「あ・うん」の精神が広く理解され、これからも障害のある人々の生活に寄り添いながら、きっと地域に根づいていく場所になると信じています。実習への感謝とともに頑張ってほしいと思いました。

 

令和2年7月10

香川県立盲学校長 田中 豊