校長からみなさまへ

校長からみなさまへ(11月24日付)

2020年11月24日 17時22分

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<第3回かがわロービジョン研修会を開催しました>

 

1121日土曜日、今年度第3回目となる「かがわロービジョン研修会」を本校会議室で開催しました。今回は京都府立盲学校教諭の藤井則之先生をお招きして、『障害の受容と盲学校教育』と題して講演をしていただきました。研修会には、本校職員以外に10名の方が参加され、その中には地域の学校に通う視覚障害のある小学生と高校生がそれぞれ一人ずつ出席してくれました。

 

さて、講演の内容について少し紹介したいと思います。講師の藤井則之先生の専門教科は数学、京都府立盲学校に勤務される前は、京都府立の高等学校2校で教鞭を執られていました。進行性の眼疾患があることは小学5年生の時に医師から告げられたそうですが、自分に視覚障害があること、それが段々と進行していることがなかなか受け入れられず、大学生になってようやく病気と向き合う準備ができたそうです。信頼する医師の勧めもあって教師の世界へ。ただ、このとき、ご自身が視覚障害をすべて受け入れたかというとそうではなく、高校教師になってからも周囲の先生方には見えにくさは伝えていたものの、管理職には言えなかったそうです。ところが、2校目の高校で人権学習を担当したとき、自分に視覚障害があることを生徒に語れなかった、視覚障害者と思われたくない、障害があることを隠そうとしていた自分に気づいたことで、自分は変わるきっかけを持つことができたと話してくれました。このあと管理職にも相談して、京都府立盲学校に転勤、その後は盲教育、視覚障害教育に教師生命をかけようと一念発起され、ありとあらゆる研究会に参加したり、発表したり、勉強に励んだそうです。

盲学校に勤務後、京都ライトハウスで受けたピアカウンセリングのこと、出会った盲学校の生徒たちのこと、近畿地区盲学校弁論大会で心打たれた弁論のことなどを話されました。特にピアカウンセリングは自身の障害受容にも大きな変化を与えたようで、詳しく話してくれました。この変化も、同じ視覚障害のあるピアの方の話や問いかけに対して、その電波を受信する藤井先生のアンテナ側の感性がよくないと何も変わらなかったのではないかと思います。藤井先生の積極的に生きようとする姿勢があって、自身の障害に対する化学変化が生じていったのではないでしょうか。

まとめとして、「障害の受容」とは、その環境や背景により一律に定義することは難しいと前置きしながら、藤井先生は以下の3点を示されました。

(1)諦めでもなく居直りでもなく、視覚障害者であることが人間の価値を下げるのものではない。

(2)悲観的でもなくて楽観的でもなくて、自分の障害を正しく認識し、それを少しでも良くしようと心穏やかに取り組めること。(克服ということではなく)

(3)やりたいことややりがいのあること、打ち込めるものがあること。それをやっている、やろうとしていること。

また、何が自分を変えたのかを振り返ったとき、これから成長していく子どもたちに何が必要で大切であるかについても、以下の3点に整理されました。

〔1〕視覚障害のある人といっぱい出会うこと(それも様々な職種の人と)。

〔2〕自分のために一生懸命になってくれる先生と出会うこと。

〔3〕視覚障害のある同年代の友だちに出会うこと(自分より年下の子と)。

そして、子どもたちの成長に必要な上記3点すべてがそろっている学校が盲学校であるとも言ってくれました。しかしこの3つの要件、果たして本校はすべてそろっている学校といえるのか。特に2つ目の「自分のために一生懸命になってくれる先生に出会う」という言葉は、私たち教師への問いかけでもあり、私たちは一人一人の子どもたちや生徒のために一生懸命になって視覚障害に係る専門性を高める努力をしているかどうか、改めて考えさせられる言葉でした。加えて藤井先生がおっしゃったのは、『教員という仕事は人の心を支えること』で『子どもにとって命の恩人』でもあること。『盲学校に出会わなければ、私は命を絶っていたかもしれない』との一言は、ずっしりと胸に響き、正直身体が震えました。予測が困難な時代、生きづらさが漂う世の中、そして感染症に襲われ、なおさら混迷を極める時代にあって、「人の心を支える」仕事である教師としての責任の重さを自覚し、日々自己点検を怠らないようにしなければと身が引き締まる思いでした。

本当に素晴らしい講演でした。拙文では内容について一部の紹介に留まりましたが、藤井先生のゆったりとした京都弁の語り口と言葉の端々にあふれる人間的魅力は、やはり生身でなければ体感できないことで、オンラインにしなくてよかったと思いました。

 

講演のあとは、福祉・医療・教育関係者協議会ということで、「障害の受容」ということについて眼科医から、視覚障害者福祉センターの方から話をいただきました。眼科医の星川先生からは、「障害を受容している人は、視覚障害がその人の一部になっている人、受容できてない人は視覚障害がその人の全部となっている人」との話で、これは分かりやすい表現だと感心しました。福祉センターの中口さんからは、「障害受容ができているかどうか急いで答える必要はないのでは。人それぞれ」との話で、たくさんの視覚障害者の生活に寄り添ってきた中口さんならではの答えだとこれも感心しました。

会の最後に、参加した高校生から、ご自身の「障害開示」について話を伺いました。彼はこの4月に地域の県立高校に入学して、自分の見えにくさをクラスメートや部活動の仲間、先輩などに伝えることで、周囲から自然な形でサポートを受けられるようになった体験談を話してくれました。それを聞いた藤井先生からは「自分のことを語れることは素晴らしいし、そういう人になれたらいいなあ。どうしてもできないことは、素直に援助を求められたらいいなあ。でも自分でできることは精一杯頑張ってほしいなあ。でも頑張り過ぎない。自分の力を一歩一歩伸ばしてくれたらいいなあ。」と満面の笑みで優しく言葉をつづってくれました。本当に子どもが好きなんだなあと思いました。

縁起の法則ではないですが、何かに導かれてこの講演会が実現し、藤井先生の話が聞けたようにも思います。やはり「ご縁」という見えない意思の力が、それも人をいい方向に変える力、生かすエネルギーが働いていたことを実感しました。遠路お越しいただいた藤井則之先生、本当にありがとうございました。

 

令和2年1124

香川県立盲学校長 田中 豊