R04~R06校長室

2201003 10月全校集会(校長室から)

2022年10月3日 17時26分

10月全校集会講話

 ちょうど1年の折り返し点となりました。ここまでを振り返って、後半の過ごし方を考えて欲しいところです。今日はそのヒントとなることを話します。

 この半年間、皆さん方には具体の場面がわかるような話、皆さん方の生活に結びつくような話を主にしてきました。今回は、抽象的な話をします。頑張ってわかりやすく話をしますから、しっかりと聴いてください。

 皆さんは生きていくなかで、さまざまな場面で決断や判断が必要となります。生きることは、判断の積み重ねで、その結果が今の人生となっています。そして、これからどのような判断をしていくかで、今後の人生を決めていくことになります。

 そこでちょっと考えてみてください。さまざまな場面で判断するときに、何をもとに判断していますか。効率(こっちの方が楽だとか、有利だから)、まわりの多くの人がそうしているから、親が言うからなどで、判断をしている人もいるのではないでしょうか。そのような判断では、一貫性がなく、いきあたりばったりの判断になってしまい、後で後悔することもあるかもしれません。そこで、自分なりの判断基準を持てば、迷ったときにはそこに立ち返り判断することができます。

 今日は、稲盛和夫氏の考え方を紹介します。稲盛氏は、半導体や太陽電池などの製造で有名な京セラという企業を創業し、後に通信事業にも乗り出し、auをブランドとするKDDIも創業し、50年以上、経済界に大きな影響を与えた人物です。また、稲盛氏はしっかりとしたものの考え方を持ち、会社経営にあたったので、その考え方に惹かれ、若手経営者が教えを請いに集うようになり、多くの経営者にも影響を与えました。稲盛氏は8月末にお亡くなりになりました。ご逝去のニュースで、稲盛氏の考え方が再注目され、2004年の初版ながら稲盛氏の著書『生き方』は宮脇書店の週間ランキング(9月15日~21日)で4位にランクインしていました。

 稲盛氏の考え方を端的に表しているのは、人生や仕事の結果は、考え方×熱意×能力 によって得られる。というところです。仕事などの結果は、考え方、熱意、能力の3つの要素のかけ算によって表すことができるというのです。足し算ではなくかけ算です。能力が高くても熱意がなければよい結果は得られません。逆に能力が高くなくても熱意が高ければ、能力が高い人よりもよい結果が得られることもあります。そして、3つの要素の中で最も重要なのが「考え方」です。考え方とは、理念とか哲学という言葉で表すことができる、心のあり方をさします。数値化した場合、能力と熱意は、0~100で表すことができます。一方、考え方は、マイナス100~プラス100で表します。つまり、能力と熱意にあふれていても、考え方が間違っていると、結果はマイナスになってしまうのです。では、プラスとなる考え方にはどのようものがあるのかというと、思いやり、優しい気持ち、努力を惜しまないこと、みんなと一緒にやっていこうとすること、利己的でないことなどをあげています。これらはあたりまえの道徳です。ただ、それを頭で理解するだけでなく、常に実践し、体にしみこませることで、考え方となっていくと説いています。わかっているだけで実行できないことは、その人の考え方とは言えないのです。

 この公式を持つに至った経緯には、稲盛氏の挫折の多い人生経験があります。中学受験に失敗、その直後に結核にかかります。大学受験にも失敗、就職活動もうまくいかず、自分の不幸を呪い、ヤクザになろうと思ったこともあるようです。ようやく、小さな碍子製造メーカーに就職します。いつつぶれてもおかしくない会社で、同期入社の仲間は次々と辞めて、稲盛氏のみが残されてしまいます。そこで吹っ切れて、自分の運命を呪うことをやめて、前向きにやってみようと研究開発をはじめた。するとよい結果が出て、さらに前向きになって、ますます仕事に熱中し、さらによい結果が生まれる好循環が生まれてきた。考え方を変えることで、悪い循環をたって、よい循環が生まれだした。この経験によって、稲盛氏は、人生は自分の考え方で良くも悪くもできるという境地に至ります。

 稲盛氏はこうも言っています。原理原則に基づいた考え方に従って生きることは、物事を成功に導き、人生に大きな実りをもたらすが、それは楽な道とは限らない。己を律することで苦しみを伴うこともあるからです。しかし、長い目で見れば確固たる考え方に基づいて起こした行動は、決して損にはならない。一時的には損に見えても、やがて必ず利になって返ってくるし、大きく道を誤ることもありません。その場限りで見れば損をしているが、それでも守るべき考え方、苦を承知で引き受けられる覚悟、それが自分の中にあるかどうかが、成功できるかどうかの分かれ道となっていると語っています。

 「苦を承知で引き受けられる覚悟」、これを皆さん方の身近な言葉に言い換えると「パティマトス 英知は苦難を通じてきたる」です。坂高生の大半は、道徳心がある程度、身についているように思われます。ただ、その場限りで見れば損をしているが、それでも実行しようとする覚悟「パティマトス」は、まだまだ備わっていないようです。ここにたどり着くには、まだ時間がかかるのかもしれません。稲盛氏にしても、2学期の始業式で紹介したファミリーマート元社長の澤田貴司氏も、高校生のころには、うまくいかず、苦しい思いをしていました。

 まずは一つ一つの行動から変えていきませんか。その時に、目の前の損得勘定ではなく、正しいと思ったこと実行することを心がけてみましょう。そうした判断の積み重ねによる行動が増えてくれば、よりよい「考え方」は、皆さん方の中にしっかりと定着し、人生がより良いものになると信じています。

 稲盛氏の著書「一日一言(いちげん)」を図書室で購入してもらいました。私が話したこと以外、たくさん稲盛氏の考えが記されています。関心を持った人は是非読んでください。