R04~R06校長室

230720終業式式辞(校長室から)

2023年7月20日 18時00分

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1学期終業式式辞

 みなさん、おはようございます。

 1学期が終わりました。ここで自分の立てた目標に対する中間評価をしてください。何ができて、何ができなかったのか、できていないことがあれば、何が原因でできなかったのか、できるようにするためには、どうしたらいいのかしっかりと振り返りをしてください。

 明日から夏休みです。ゼミや部活動があるとはいえ、多くの時間の過ごし方を皆さんに任せます。そこで、みなさんの過ごし方の参考となる話をします。

 まず、ニュース映像を流します。ここで紹介される「エキマトペ※注)を開発したのは、坂出高校を2009年に卒業した本多達也さんです。

 では、映像を見てください。

(映像が流れる)

 本来であれば、昨年の向畑さんのように学校にお招きして講演をしてもらいたいのですが、現在、本多さんはデンマークにいるため、それができません。「エキマトペ」を開発するに至った経緯などを、本多さんがまとめた本「SDGs時代のソーシャル・イントラプレナーという働き方(日経BP)」※注)が出版されましたので、その内容から話をします。

 大学に進学したものの、将来何をするか決めてない状況下で一つの出会いがありました。1年の大学祭で道に迷った2人のろう者(耳の聞こえない人)を見かけ、身振りや携帯電話を使い説明しました。その方が、函館ろうあ協会会長で、兼平さんという方でした。二人は週1回ほど、一緒に温泉などに行く友人となります。一緒にいるなかで、自分は犬が吠えてもびっくりするけど、兼平さんはびっくりしない。音楽番組を見ているときに自分は音楽を鑑賞しているけど、兼平さんは歌詞をじっと見ているなど、音に対するギャップを感じるようになりました。

 そこから、ろう者と一緒に音を楽しむことができないか、在学中に研究を始めました。研究を進めるために、経済産業省が行っている、若手IT人材育成プログラムに応募し、予算と指導者を得ます。音を振動に変えて身体に伝える技術を開発し、ヘアピンのようなものを頭につけて音を感じる機械の原型をつくり、「オンテナ※注)と名付けました。残念ながら、在学中には商品化には至りませんでした。

 そこで、入社した富士通で商品化をめざします。社内には「できないことがあたりまえ」と思い込んでいる社員(優秀ではあるが、指示待ちになっている人)が多かったようです。商品化は本多さん一人ではできません。さまざまな分野(テクノロジー、デザイン、広告など)の人たちの協力が必要です。そこで、本多さんは、「ろう者と音を楽しむ」という明確なビジョンとその実現に向けた思いを素直に伝え、協力者を増やし、会社にも開発を認めてもらい、試作品をつくります。使った人からは、「サッカー観戦で、会場の盛り上がりを感じられただけでなく、PKの時の静かさや緊張感を感じることができた」とか、「映画鑑賞で雨の音の違いを感じられた」などの感想を得ます。そこから、ろう者だけの商品ではなく、多くの人と楽しめる商品にできるのではないかと、考え方を広げることにしました。そうすることで、商品単価を下げ、ろう者が購入しやすくなりますし、ろう者への理解も広がります。こうして、「オンテナ」の商品化に成功します。

 次に本多さんは、「エキマトペ」の開発に乗り出します。ろう者から、「どのようなものがあれば便利か」考えてもらった時に出てきた「電車通学の不便さ」をもとに、ろう者に便利なだけではなく、多くの人が見ているだけで楽しめるものをつくろうという考えで生まれたのが、「エキマトペ」です。

 本多さんの活動から見えてくるのは、「ろう者と音を楽しみたい」という、強い気持ちです。その気持ちが本多さん自身を動かす大きな力になりました。自分の将来を考えたときに、理屈で自分を納得させたものであれば、困難に直面すると諦めてしまうかもしれません。やはり、人間を強く動かすのは、心からわいてくる気持ちです。

 みなさんは、社会をよくするために、人を幸せにするために、人に喜んでもらうために、環境のために、このようなことをしたいという強い気持ちはありますか。もし、そのような気持ちを持っているのであれば、大切にして欲しいです。まだ、このようなことをしたいというものがないのであれば、経験(部活動、生徒会活動、ボランティア活動、海や山に行くなど)をたくさん積んで欲しいです。実体験から得た感情は強いです。総合的な探究の時間で立てた問いに関して、実社会で調査することも考えてください。また、自分で経験できることは限られているので、それを補うものとして読書を勧めます。本を読むことで社会や人間の考え方を知るよい経験となります。

 しかしながら、高校時代に自分の将来の仕事につながる強い動機付けを持つことができるとは限りません。本多さんのように大学に入ってからかもしれません。自分の感性(引っかかり)を高くするものとして、基本的な教養(現在みなさんが取り組んでいる学習)があります。高校での学びはさまざまな学問の基盤となります。受験のために勉強する以前に、高校生として学ぶべき教養なのですから、学校での学びを大切にして欲しいです。1学期に学習面で足りていない部分があれば、夏休み中に補ってください。

 3年生については、教養としての勉強にプラスして受験勉強がスタートしています。この夏休みは勉強一色になって欲しいところです。人生のなかで、このような経験をすることも意味があります。勉強の成果はすぐには現れませんが、秋には成果が現れてきます。それを信じて、この夏はとことん勉強してください。また、部活動を続けている3年生のみなさん、まさに文武両道を実現して欲しいところです。

 最後に、9月初めには坂高祭があります。久しぶりに一般公開での坂高祭です。多くの人が坂高生のレベルの高い展示・発表を期待して来校してくださります。みなさんの力の見せ所です。どれだけできるか期待しています。

 それでは、9月にみなさんにお会いできることを楽しみにしています。

※注)本校卒業生の功績として、本校のホームページ管理者が関連サイトにリンクいたしました。