校長からみなさまへ

校長からみなさまへ(12月17日付)

2020年12月17日 16時32分

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<人権講演会を開催しました>

 

1216日水曜日、「絆創膏の会」代表の大湾 昇さんを講師としてお招きし、人権講演会を開催しました。本校児童生徒だけでなく、保護者、教職員も対象とした研修の場でした。

講師の大湾さんは、徳島県の出身、地元の市の教育委員会で学力向上支援指導員としてのご勤務などを経て、今では全国各地で同和問題を中心とした様々な人権課題について積極的に講演活動をされています。当日の午前中は農業経営高校での講演を終え、午後から本校に来てくださいました。

講演テーマは『あることをないことにしない』。今日は人権や同和問題についてのお話でしたが、このテーマを聞いて、今の世の中、万人が見ても実際にあったのではないかと思われることが、さも無かったことのように、うやむやのまま、腑に落ちないまま流れていくことがあまりに多いように感じます。白黒はっきりさせることがすべてよしとは思いませんが、ついつい疑念を抱いてしまいます。

 

さて、大湾さんの講演の内容について、この紙面で詳しくお伝えすることは難しいですが、「無知」や「無関心」がいかに怖いことであるか、想像力が欠如すると知らない間に人を傷つけてしまっている、そしてそれにも気づかない人間になってしまうこと。おかしいなと疑問に思ったことをそのままにしないこと。ご自身の体験や生きざま、全国の講演で出会った中学生や高校生の話を織り交ぜながら、大きな熱量をもって私たちに語ってくれました。児童生徒とのやり取りも楽しく、あっという間の90分でした。講演の最後は「絆創膏の会」の名前の由来のお話。大湾さんはある学校の保健室の先生(養護教諭)から、「けがをして保健室にやってくる子どもたちは絆創膏を貼ると安心する」という話を聞いて、絆創膏の意味を考えたそうです。絆創膏は傷の手当だけでなく、心の手当てもしてくれる、傷を負った子どもに目に見える、触って分かる安心感を与えてくれる、気軽に誰もができる人への思いやりが絆創膏には詰まっている。そんな絆創膏のような存在になりたいとの思いから、名付けたとのことでした。

講演会は密集を避けるため、会場は体育館とし窓を開けてスタートしました。ストーブは4台用意しましたが、あいにく当日は日本中に寒波到来、高松も初雪が観測されるなど今年一番の冷え込みでした。あまりの寒さに途中に窓を閉めたりもしましたが、大湾さんは、講演の冒頭から半ズボン姿で着席していた児童がずっと気になっていたようで、話の合間には「大丈夫?寒くないかい」と声を掛けてくれていました。そして、講演途中の短い休憩時間に、自分が来ていたダウンジャケットを脱いで、「膝にかけとこう」とその児童に手渡してくれていました。子どものことを考えると、居ても立っても居られない、その気持ちを行動に移す大湾さんの心根の優しさと心遣いに感服させられるとともに、気づいていても行動できなかった私たち周囲の教員の行動力の鈍さを、とても恥ずかしく思いました。子どもたちの「絆創膏」にはなれていなかったことを、改めて反省しました。

 

講演が終わった後、校長室でしばらく談話の時間をいただきました。会話の中で大湾さんがぽろっと「本当は学校の先生になりたかった」という話をしてくれました。私は今からでも遅くないと言おうと思いましたが、その言葉を飲み込みました。今の大湾さんは、余人をもって代えがたい素晴らしい教師であり、学校という枠の中には納まらない今の活動を、もっともっと全国の子どもたちに届けることが大湾さんの使命だと勝手に納得しました。学校を発つ前には、もう一度生徒の顔が見たいと言って、音楽室で楽器の練習をしていた3名の高等部生徒と会い、励ましの言葉を。やっぱり子どもが好きなんだなあと感心しました。

 

今日17日は、三重県名張市の中学校で講演をするとのこと。またたくさんの生徒の心に絆創膏を貼ってくれることでしょう。大湾さん、ありがとうございました。

 

令和2年1217

香川県立盲学校長 田中 豊

校長からみなさまへ(11月24日付)

2020年11月24日 17時22分

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<第3回かがわロービジョン研修会を開催しました>

 

1121日土曜日、今年度第3回目となる「かがわロービジョン研修会」を本校会議室で開催しました。今回は京都府立盲学校教諭の藤井則之先生をお招きして、『障害の受容と盲学校教育』と題して講演をしていただきました。研修会には、本校職員以外に10名の方が参加され、その中には地域の学校に通う視覚障害のある小学生と高校生がそれぞれ一人ずつ出席してくれました。

 

さて、講演の内容について少し紹介したいと思います。講師の藤井則之先生の専門教科は数学、京都府立盲学校に勤務される前は、京都府立の高等学校2校で教鞭を執られていました。進行性の眼疾患があることは小学5年生の時に医師から告げられたそうですが、自分に視覚障害があること、それが段々と進行していることがなかなか受け入れられず、大学生になってようやく病気と向き合う準備ができたそうです。信頼する医師の勧めもあって教師の世界へ。ただ、このとき、ご自身が視覚障害をすべて受け入れたかというとそうではなく、高校教師になってからも周囲の先生方には見えにくさは伝えていたものの、管理職には言えなかったそうです。ところが、2校目の高校で人権学習を担当したとき、自分に視覚障害があることを生徒に語れなかった、視覚障害者と思われたくない、障害があることを隠そうとしていた自分に気づいたことで、自分は変わるきっかけを持つことができたと話してくれました。このあと管理職にも相談して、京都府立盲学校に転勤、その後は盲教育、視覚障害教育に教師生命をかけようと一念発起され、ありとあらゆる研究会に参加したり、発表したり、勉強に励んだそうです。

盲学校に勤務後、京都ライトハウスで受けたピアカウンセリングのこと、出会った盲学校の生徒たちのこと、近畿地区盲学校弁論大会で心打たれた弁論のことなどを話されました。特にピアカウンセリングは自身の障害受容にも大きな変化を与えたようで、詳しく話してくれました。この変化も、同じ視覚障害のあるピアの方の話や問いかけに対して、その電波を受信する藤井先生のアンテナ側の感性がよくないと何も変わらなかったのではないかと思います。藤井先生の積極的に生きようとする姿勢があって、自身の障害に対する化学変化が生じていったのではないでしょうか。

まとめとして、「障害の受容」とは、その環境や背景により一律に定義することは難しいと前置きしながら、藤井先生は以下の3点を示されました。

(1)諦めでもなく居直りでもなく、視覚障害者であることが人間の価値を下げるのものではない。

(2)悲観的でもなくて楽観的でもなくて、自分の障害を正しく認識し、それを少しでも良くしようと心穏やかに取り組めること。(克服ということではなく)

(3)やりたいことややりがいのあること、打ち込めるものがあること。それをやっている、やろうとしていること。

また、何が自分を変えたのかを振り返ったとき、これから成長していく子どもたちに何が必要で大切であるかについても、以下の3点に整理されました。

〔1〕視覚障害のある人といっぱい出会うこと(それも様々な職種の人と)。

〔2〕自分のために一生懸命になってくれる先生と出会うこと。

〔3〕視覚障害のある同年代の友だちに出会うこと(自分より年下の子と)。

そして、子どもたちの成長に必要な上記3点すべてがそろっている学校が盲学校であるとも言ってくれました。しかしこの3つの要件、果たして本校はすべてそろっている学校といえるのか。特に2つ目の「自分のために一生懸命になってくれる先生に出会う」という言葉は、私たち教師への問いかけでもあり、私たちは一人一人の子どもたちや生徒のために一生懸命になって視覚障害に係る専門性を高める努力をしているかどうか、改めて考えさせられる言葉でした。加えて藤井先生がおっしゃったのは、『教員という仕事は人の心を支えること』で『子どもにとって命の恩人』でもあること。『盲学校に出会わなければ、私は命を絶っていたかもしれない』との一言は、ずっしりと胸に響き、正直身体が震えました。予測が困難な時代、生きづらさが漂う世の中、そして感染症に襲われ、なおさら混迷を極める時代にあって、「人の心を支える」仕事である教師としての責任の重さを自覚し、日々自己点検を怠らないようにしなければと身が引き締まる思いでした。

本当に素晴らしい講演でした。拙文では内容について一部の紹介に留まりましたが、藤井先生のゆったりとした京都弁の語り口と言葉の端々にあふれる人間的魅力は、やはり生身でなければ体感できないことで、オンラインにしなくてよかったと思いました。

 

講演のあとは、福祉・医療・教育関係者協議会ということで、「障害の受容」ということについて眼科医から、視覚障害者福祉センターの方から話をいただきました。眼科医の星川先生からは、「障害を受容している人は、視覚障害がその人の一部になっている人、受容できてない人は視覚障害がその人の全部となっている人」との話で、これは分かりやすい表現だと感心しました。福祉センターの中口さんからは、「障害受容ができているかどうか急いで答える必要はないのでは。人それぞれ」との話で、たくさんの視覚障害者の生活に寄り添ってきた中口さんならではの答えだとこれも感心しました。

会の最後に、参加した高校生から、ご自身の「障害開示」について話を伺いました。彼はこの4月に地域の県立高校に入学して、自分の見えにくさをクラスメートや部活動の仲間、先輩などに伝えることで、周囲から自然な形でサポートを受けられるようになった体験談を話してくれました。それを聞いた藤井先生からは「自分のことを語れることは素晴らしいし、そういう人になれたらいいなあ。どうしてもできないことは、素直に援助を求められたらいいなあ。でも自分でできることは精一杯頑張ってほしいなあ。でも頑張り過ぎない。自分の力を一歩一歩伸ばしてくれたらいいなあ。」と満面の笑みで優しく言葉をつづってくれました。本当に子どもが好きなんだなあと思いました。

縁起の法則ではないですが、何かに導かれてこの講演会が実現し、藤井先生の話が聞けたようにも思います。やはり「ご縁」という見えない意思の力が、それも人をいい方向に変える力、生かすエネルギーが働いていたことを実感しました。遠路お越しいただいた藤井則之先生、本当にありがとうございました。

 

令和2年1124

香川県立盲学校長 田中 豊

校長からみなさまへ(11月18日付)

2020年11月18日 11時40分

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<新番丁小学校5年生よりお手紙をいただきました>

 

1029日、30日の2日間、新番丁小学校5年生が総合的な学習の時間の授業として本校を訪れてくれたことについては、以前の校長からのメッセージでお話したところですが、一昨日、その5年生のみなさんからたくさんのお手紙をいただきました。1通1通ゆっくり読ませてもらいましたが、それぞれ個性豊かな筆致で、本校を見て、体験して、思ったこと感じたこと考えたことをそれぞれの表現で記していて、とてもほっこりとしたうれしい気持ちになりました。

 

子どもたちが共通して書いていたことは、盲学校と新番丁小学校との施設面での違いでした。校内の動線に沿って敷設された点字ブロック、点字ブロックを確認しやすい廊下の色、階段の境目が分かりやすいような配色のコントラスト、手すりの位置など校舎の外から見たのでは分からない学校の様子について、まずみなさん驚いたようでした。次は便利グッズコーナー(支援機器などの展示コーナー)を見学した感想で、ある子は『ユニバーサルデザインは、不自由な人のために作られているんだと思っていたけど、みんなのためにあることが分かりました。』との気づきを書いてくれました。二人一組になって体験した視覚障がい者への手引きについてもたくさんの感想がありました。『困っている視覚障がい者がいたら勇気を出して声をかけたい』、『この町でこまっている人がいたら、視覚障がい者はもちろん、お年よりや車いすの人など、話を聞いてだれかの役に立ちたい』など同じような言葉がたくさん見られました。一歩踏み出す決意にもとれる素直な思いに頼もしさを感じました。大人になっても、どうぞこの思いを忘れずいてほしいです。

 

いずれの手紙も素晴らしく、もっと紹介したいのですが、私が興味を惹かれた手紙をちょっと紹介します。『ぼくは、盲学校の前を通るとき、いつも「盲学校の中はどうなっているのだろう。」となぞがたくさんあったのですが、先日見学させてくださったおかげで、そのたくさんのなぞがとけました。』と書いていました。この子にとって、盲学校は「なぞの学校」だったようで、1年生のときから本校の前を歩いて小学校に通っていたとするなら、積年のなぞが解け、とてもすっきりした気持ちになったのではないかと思いました。見学して解けたなぞも多かったようですが、その文章の最後は、『くわしく調べてみます。』と締めくくっていました。この子は本校訪問のあと、また新たな「なぞ」を発見したようです。この子の知的好奇心や探究心は素晴らしい。これこそ教科書のない総合的な学習の可能性と広がりを示すものとも言えます。

 

子どもたちの手紙を読んでふと考えたこと。段々と歳を重ねてきて少しは世の中のことが分かったような気になり、世の出来事に「なぞ」を感じても何となく蓋をして、挙げ句に「しょうがない」とやり過ごすことが多くなってきたように思います。子どもたちの手紙をもう一度読み直して、世の中に渦巻いているたくさんの「なぞ」にきちんと対座し、それを探究していかなければだめですね。

 

令和2年1118

香川県立盲学校長 田中 豊

校長からみなさまへ(11月3日付)

2020年11月3日 18時37分

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<令和2年度 文化祭を開催しました>

 

本日、11月3日、令和2年度の文化祭を開催しました。本校の文化祭は少なくとも15年以上前から祝日である文化の日をその開催日と定めています。毎年同じ日にすると決めておけば、卒業生や保護者のみなさまも予定が立て易くなりますね。

 

昨年4月盲学校に赴任し、初めて文化祭に参加しましたが、幼児児童生徒数が少ないなか先生方も工夫を凝らし、それぞれが活躍できる場をたくさん設けてくれて、たいへん活気のある文化祭でした。体育館での学習発表を中心に、幼児児童生徒・保護者・教職員による作品展、理療を学ぶ生徒によるクイックマッサージ、点訳ボランティアサークルによる点字体験教室、屋外ではPTAによるうどんの販売、高松信用金庫さんのくじ引きコーナー、作業学習等作品の展示等、加えて野外ステージでの演奏もあり盛りだくさんの内容でした。しかしながら、今年は(くだん)の感染症拡大防止により規模を縮小せざるを得ず、体育館での学習発表、幼児児童生徒の作品展、学習成果の発表としてのお店屋さんなどに限定し、来賓や卒業生、一般の方々の来場はご遠慮願い、ご家族のみの公開としました。

 

当日は、さわやかな秋晴れの好日。一日中降り続いた前日の雨も明け方には上がり、暖かい日差しに恵まれ、おじいちゃん、おばあちゃん、兄弟姉妹も含め40名を超えるみなさんが来場してくれました。今年の文化祭テーマは「~DELIGHT みんなでひろげる『きずな』の輪~」、生徒たちが決めました。開会の生徒会長山川君の挨拶では「新型コロナウイルスの影響で臨時休校期間が長く続きましたが、学校が再開して『人に会える喜び』を強く感じています。この『喜び』を表現し、改めて人と人との『きずな』を強めるよう思いを込めました。」と、今まで経験したことがないコロナ禍という事態をとおして、生徒自身が感じたこと、よく考えたことがテーマとして表現されました。当たり前にできることに感謝の気持ちを持ち、みんなで絆を深めてこの困難な状況を乗り切っていこうという思いが伝わってきました。

 

文化祭の詳しい様子は、また写真も含め近々ホームページで公開される予定ですのでここでは割愛しますが、子どもたちの頑張りに大きな大きな拍手を送りたい。そして、一人一人が輝くよう創意工夫してくれた先生方のアイデアと努力にも感謝、感謝です。子どもたち一人一人、先生方一人一人がかけがえのない存在であることを改めて感じました。

やり直しがきかない、この時この瞬間にしかできない経験もあります。これからも、子どもたちの教育活動ができるだけ制限されないよう、みんなで智恵を出し合って、議論して、熟慮しながら前向きに取り組んでいきたいです。

 

令和2年11月3日

香川県立盲学校長 田中 豊

校長からみなさまへ(10月30日付)

2020年10月30日 15時08分

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<高松市立新番丁小学校の児童が本校にやってきました>

 

1029日、30日の2日間にかけて、新番丁小学校5年生の子どもたちが本校を訪問し、学びの機会を持ちました。新番丁小学校の5年生は4クラスあるそうで、それを半分に分けて66名ずつの児童がやってきました。新番丁小学校は本校に一番近い小学校で、本校小学部児童も新番丁小学校に伺って、クラブ活動などの時間に参加させてもらうなど以前から交流を深めています。今回の訪問は、5年生の「総合学習(総合的な学習の時間)」の授業としての取組で、視覚障害をメインにしてバリアフリーやユニバーサルデザインなどについて学ぶというのが目的です。

 

「総合的な学習の時間」というのは、平成14年から実施された学習指導要領に初めて登場し、「総合的な学習の時間においては、各学校は、地域や学校、児童の実態等に応じて、横断的・総合的な学習や児童の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行うものとする。」と示されました。平成14年といえば学校完全週5日制が実施された年で、いわゆる「詰め込み教育」から「ゆとり教育」への転換の年でもありました。総合的な学習の時間の内容については、「例えば国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題、児童の興味・関心に基づく課題、地域や学校の特色に応じた課題など」とだけ示され、基本的には各学校の裁量に任されています。小・中・高とそれぞれの成長段階に応じたテーマで取り組むことにより、子どもたち自身が自分の生き方を見つける、時には運命を変えるくらい可能性のある時間になると私は考えています。(補足:最新の学習指導要領では、高校(高等部)については「総合的な探究の時間」という名称に変わっています)総合的な学習の時間の在り方については、創設当初から現在までゆとり教育に絡めて様々な議論がなされ、時間数の減少など紆余曲折もありましたが、脱ゆとり教育に舵を切った現在にあっては、今後も大切にしたい授業だと個人的には思っています。

 

さて、新番丁小学校5年生の子どもたち、みなさんとても礼儀正しく、挨拶もはきはきとできており素晴らしい。3グループに分かれ、授業の様子や支援グッズ展示コーナーの見学、アイマスクをつけて手引きの体験をしました。にぎやかに真剣に取り組んでくれました。バインダーに挟んだメモ用紙に一所懸命書き込んでいる子どももたくさんいて、すごいなあと感心しながら、本校での見聞や体験が、この子どもたちの今後の人生にどんな影響を与えるのだろうかとしばし考えました。以前、旧四番丁小学校で開設している「しうんまんまる広場」という子ども食堂に、縁あってお邪魔したことがあります。そこで一人の中学生と出会い、私が盲学校に勤務していることを伝えると、「小学校の時に行ったよ」と新番丁小学校時代に本校に来たことを笑顔で話してくれました。彼にどうだった?と聞くと、「(目が見えないのは)大変だなあと思った」と、心に留めてくれていたようで少し嬉しい気持ちになったことを思い出しました。

 

感性や記憶というのは人それぞれ、来校した130名あまりの子どもたちも感じ方や思いは様々です。小学校に戻ってから昨日今日の振り返りやまとめをすると思いますが、本校で一人一人が感じたこと、心に残ったことを画一的なフレームの中に押し込めることなく、子どもたちの様々な感性や思い、考えをつないで、知的創造が広がるような素敵な時間や空間をつくってくれたらいいなぁと思います。

 

令和2年1030

香川県立盲学校長 田中 豊

校長からみなさまへ(10月9日付)

2020年10月9日 20時41分

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<全国盲学校長会秋季研究協議会函館大会(オンライン)が開催されました>

 

今日は全国盲学校長会(愛称:全盲長)について、少しご紹介します。

 

今年度の全国盲学校長会秋季研究協議大会が、10月9日(金)の午後からオンラインで開催されました。当初の計画では、10月8日~9日の2日間にかけて北海道函館の地で開催される予定でしたが、やはりこのご時勢、全国各地から函館に集合するということが難しく、10月9日の午後に期間を短縮し、オンラインにより一部の内容に限定して実施することとなりました。

主管校の函館盲学校を始め旭川盲学校、帯広盲学校、札幌視覚支援学校の北海道地区4校の校長先生方、全国盲学校長会会長の文京盲学校木村校長先生はじめ事務局の校長先生方が、何とか函館で開催できないものかと8月初旬まで検討してくれましたが、各校の安全・安心な学校運営を考え、現地での開催は断念することとなりました。

しかし、「顔の見える全盲長」がこの校長会のいいところですので、Web上での開催を検討準備していただき、大会当日まで2回の接続確認の機会、10月5日にはプレ大会の開催ということで、2時間ほどの情報交換等の時間を設けてくれました。プレ大会では、校務の都合で全員の先生方が参加することは難しかったようですが、全国盲学校長会会員67名のうち38名の校長先生が参加され、参加者一人ずつの自己紹介と簡単な現状報告から会が始まりました。昨年1010日、11日に長崎市で開催された全盲長秋季大会で親交を深めた先生方の元気そうなお顔も拝見でき、プレ大会とはいいながら、もうすでに本番の大会が始まっているようなワクワクした気持ちになりました。

 

全国の盲学校(視覚支援学校)は県立63校、市立2校、大学附属1校、私立が1校となっています。公立・市立65校のうち、「盲学校」または学校名に「盲」という文字が入っている学校は42校、「視覚(特別)支援」が校名にある学校は17校、校名変更により「盲」、「視覚」の文字は無くなりましたが、視覚障害部門だけの学校が2校、知的とか肢体不自由とか複数の障害に対応する部門を設けている学校が4校となっています。徳島視覚支援学校は徳島聴覚支援学校と併置されており、両校で校長先生は一人という学校もあります。大学附属も私立の学校も視覚障害教育単独校で、全国的にみても単独校がほとんどです。盲学校という校名を残している学校の割合も、6割を超えています。長年親しまれてきて、100年以上の伝統と歴史のある「盲学校」という校名ですが、私個人としてはそろそろ変更したほうがいいかなと思っています。100年以上の歴史があるにもかかわらず、世間一般的には「全く目が見えない人の学校」という印象が今でもあるように感じます。幼児児童生徒数の少ない本校でさえ、全盲の生徒と弱視の生徒の割合は半分半分です。教育の世界でも「盲教育」と「弱視教育」はそれぞれの研究分野を確立しています。両方を合わせて「視覚障害教育」と理解していますので、いつまでも「盲学校」という校名にこだわらなくてもいいと考えています。あくまで個人の意見ということを申し添えますが。

視覚障害を広くとらえると、見え方に困難があるということ、発達障害などに起因する読み方や見え方に困難を抱える子どもたちへの支援についても、視覚障害教育が今まで培ってきたノウハウは必ず役に立つと思います。そういう困り感覚を持っている子どもたちも支援していく、守備範囲の広い学校をめざしていくのも有りではないでしょうか。

 

さて、個人の思いが少し強くなってきましたので、今日のオンライン函館大会に戻ります。大会は開閉会式、シンポジウムと全体指導という構成で、全体指導は文部科学省初等中等教育局特別支援教育課調査官の森田浩司先生による指導助言でした。シンポジウムのテーマは「新型コロナウイルス感染症対策と共存する学校経営の在り方」で、各校より事前に提出された感染症に係る取組状況等の資料を全盲長事務局長八王子盲学校の山岸校長先生が集約され、大会用資料として電子データで事前送付してくれました。今日は、パソコン画面の大会用資料を難しい顔をして確認しながら、脇においたオンライン用のタブレット端末には笑顔を見せるといった二つの顔を駆使しながら、各校長先生方からの話に聞き入りました。

シンポジウムでは、全盲長会長の木村校長先生が司会をされましたが、打ち合わせなしのリレー形式で、最初に指名された校長がランダムに次の発言者を指名するという方法でした。まず指名はないだろうと油断していましたが、山梨県立盲学校の成田校長先生より指名を受け、私も少し発言させていただきました。12名のみなさんが発言しましたが、気がついたら2時間ほど経過していました。

シンポジウムでの話、また送っていただいた各校の取組状況の資料を読んでいろいろ勉強になりました。感染拡大の地域差により、臨時休業の期間や対外行事等の実施についてはやや違いがみられますが、衛生面を中心とした対策は、どの学校もほぼ同じような取組がなされています。また、ほとんどの学校には「あんま・はり・きゅう」を学ぶ理療に関する学科が設置され、臨床実習という授業の形で校外から患者さんを受け入れ施術していますが、自粛期間中には、全ての学校が患者受け入れを中止していました。しかし、9月以降徐々に受け入れを再開する学校が増えてきている状況です。ちなみに本校の状況ですが、患者を受け入れるための感染症対策ガイドラインを作成し準備は進めていますが、生徒の技術がまだ十分でないという判断で受け入れはできていません。また準備ができればホームページ等でお知らせします。

学習面については、感染症による臨時休業があったがゆえに、オンラインによる授業や盲学校間のオンライン交流が展開できたという話題など、教育活動が制限された中にあっても新しい発見と取組がなされていることが分かりました。安直に「災い転じて福となす」というのも憚られますが、ウイルスとの共生・共存をもっと前向きに捉え、今後の可能性を明るく考えていきたいなぁと思いました。

全体指導では、森田調査官より国の方針等の全体的な説明をいただきましたが、本来でしたら6月の全国盲学校長会、そして今回の全盲長秋季大会と二度に分けて説明する内容を、加えてコロナ対策の内容もありましたので、これを1時間で要点を絞って話すのは大変だったと思います。総じて感じたのは、この感染症は教育界の変化を加速化させたということです。中央教育審議会特別部会の中間まとめの資料の中に、「日本型学校教育」は世界から高い評価を受けているとの表現がありましたが、これは現場の先生方の「子どもたちのために」という献身的な努力があってのことです。学校現場出身の森田調査官は十分わかっていただいていると思いますので、今後とも学校現場のために頑張ってほしいと思います。

まとまりのない拙い文章になってしまいましたが、今日の思いは今日のうちに…。また、全盲長の先生方に直接お会いできる日を楽しみにしています。今日は大変お世話になりありがとうございました。

 

令和2年10月9日

香川県立盲学校長 田中 豊

校長からみなさまへ(9月26日付)

2020年9月26日 18時56分

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<第1回目の学校公開(授業参観)を実施しました>

 

9月26日(土)、今年度第1回目の学校公開(授業参観)を開催しました。盲学校の‟今“を広く一般のみなさまにも知っていただく機会として、第1回目は9月下旬頃、第2回目は1月下旬頃に毎年開催しています。今年はご多分に漏れず、コロナ禍という如何ともしがたい状況ではありましたが、保護者も含めた来校者全員の健康チェック、検温、手指消毒、氏名や連絡先等の記入など十分な感染症対策に取り組むことで実施することといたしました。

公開の時間帯は、1時間目から6時間目までの8時45分から1515分の間、全ての授業を見ることができます。ただし、外来患者の予約があった場合の保健理療科、理療科の臨床実習は非公開としています。(今年度はまだ外来患者の受付はしていませんが)学校公開日は保護者のみなさまの授業参観日でもあり、自分のお子さんだけでなく、他学部の授業も参観できるとあって、ほとんどの保護者が参加してくれています。同時に希望する保護者を対象とした給食試食会も開催し、感染症対策もしながら美味しい給食をいただきました。学校公開ですから希望があれば併置する寄宿舎も見学可能で、そこで生活する児童生徒の様子もパネルで展示しています。また、視覚障害のある人が、生活したり学習したりするうえで役に立つ「便利グッズ」の展示と職員による生の紹介も行っています。この「便利グッズ」コーナーは、年がら年中常設の展示スペースを設けており、資料館とまではいきませんが、新しい「便利グッズ」が発売されたりすると、展示に加えるなど情報を更新しています。

 

さて、今日の学校公開、本校保護者のみなさんがご兄弟も含めて25名、保護者以外の方々が48名来校してくださいました。コロナ禍の中ですので、保護者以外の参加はほとんどないのかも…と想像していましたが、例年にない参加者数になりました。48名のうち、約半数の23名が坂出高等学校の教育創造コースの生徒のみなさんでした。坂出高校の教育創造コースは、将来、教員をめざす生徒を育てることを目的に、平成29年度に新設された課程です。1年次から教職への理解を深めるための大学教員による授業や、小学校での体験活動などに取り組んでいるそうです。今日来校された生徒のみなさんは、初めての盲学校参観だったようで、どなたもたいへん熱心に参観し、感じること、考えたことも多かったようです。そのほか、教育関係者や福祉関係者の方々、次年度に本校への就学を考えてくれている小学生とその保護者の方など、たくさんの方々に参観いただきワクワクした一日になりました。

 

参観後、来校者のみなさまにアンケートを書いていただきました。すべて読ませていただきましたが、初めて盲学校を見学した高校生からのアンケートがとても印象的でした。盲学校では一人一人の状態に合わせて様々な工夫がなされて教育活動が行われていること、先生方が明るく授業の雰囲気が良かったなどの感想が複数ありました。特別支援学校では当たり前に行われている個別の支援や指導について、高校生には新鮮であったようです。また、UDブラウザを使ったタブレット端末による授業を見て、私たちも授業で使えるようになればいいのに…との感想もありました。

学校というところは、温かい雰囲気の中で、生徒が教師を信頼し、教師も生徒の可能性を信じるというお互いの信頼関係と安心感の土壌があって、生徒の学ぶ意欲や姿勢が育ち、それにより教師も人間的に成長していくと考えます。将来教員を目指す生徒のみなさんが、今日の参観によってそのことを肌で感じることができたのであればうれしく思います。

 

令和2年9月26

香川県立盲学校長 田中 豊

校長からみなさまへ(9月18日付)

2020年9月18日 11時35分

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<校内グループ研修を行いました>

 

9月17日(木)の放課後、校内グループ研修がありました。本校では、教員の「現職教育」として、寄宿舎の先生も含めた全教員が年間をとおして複数の研修グループに分かれ、月に1回程度、放課後に研修の時間を設けています。グループの研修内容等については年度ごとに見直していますが、今年のグループは「歩行指導」「点字指導」「情報支援機器」「(視覚障害者)スポーツ」「重複障害教育」の5グループです。いずれも盲学校らしいグループの名称で、盲学校にとって必要不可欠な教育をテーマに研修が行われています。

今日の校内グループ研修は、毎月のグループ研修とは別に開催されました。テーマは『重複障害のある子どもの図画工作~主体的に関われる造形活動~』。小学部の新進気鋭の若手教員2名が2年間の研究成果を発表しました。実はこの研究、本年7月30日から31日にかけて松山市で開催されることになっていた「第95回令和2年度全日本盲学校教育研究大会」(通称:全日盲研)で、中国四国地区代表として実践報告される予定になっていた内容でした。全日盲研は毎年全国各県持ち回りで開催されており、昨年度の第94回京都大会では470名を超える参加者があるなど、視覚障害教育に携わる教員等にとっても全国最大規模の大会です。95回ということは、95年以上続いている研究大会であり盲学校での教育の歴史を感じるところですが、やはり今年は感染症拡大防止を理由にやむなく中止となりました。主管校であった愛媛県立松山盲学校の先生方には、早くから準備を進めていただき、いざ本番という矢先にこの状況となったこと、心中察するに余りあります。中国四国地区として協力校でもあった本校も、大変残念でした。

こうしたことから、せっかくの研究成果を校内で共有しようと、この研修の実施となりました。

研究に取り組んだのは小学部重複学級の図工の授業で、個性豊かな児童3名が在籍する学級です。平成30年度・令和元年度の2年間、図工の中でも「造形」活動に焦点を当て、子どもたちの成長と先生方の試行錯誤の様子がよく分かる実践発表となりました。盲学校では、目が見えない、見えにくい子どもに対して、積極的に触覚が活用できるように指導します。でも想像してみてください。目隠しした状態で、知らないモノを触るには結構勇気が必要です。触るモノに対する知識を自分が持っていれば、躊躇なく触ることができますが。未知のモノを既知のモノにしていくこと、そのモノの概念を子どもたちの中に作り上げていくことが様々な学習を進めていく上でとても大切になってきます。この実践、まず子どもたちにモノを触ることへの安心感を与え、感覚的な遊びの段階を踏まえてモノに対する概念を形成し、造形活動による表現力の育成にまで高めることができました。一人の児童は、自分の作品を家族に見せたい、作品を説明したいと鑑賞を楽しむまでに成長していることも報告されました。子どもたちのこれからますますの成長が期待できます。研究発表に向けて一生懸命取り組んだお二人の先生に、改めて拍手を送るとともに、発表を支えサポートしてくれたベテランの先生方にも感謝したいと思います。

学校というところは、よく閉鎖的と言われます。たぶん学校での取組についての発信が十分でないのかもしれません。でも、先生方は目の前の子どもたちのことを一番に考え、日々悩みながら一生懸命に努力しています。これからも、生徒の成長や先生方の頑張りを(校長目線かもしれませんが)発信していきたいと思っています。

 

令和2年9月18

香川県立盲学校長 田中 豊

校長からみなさまへ

2020年9月7日 12時42分

香川県立盲学校のWebサイト(ホームページ)をご覧いただき、ありがとうございます。

 

ALTの先生が来校しました>

 

9月7日(月)の午後からALTAssistant Language Teacher)の先生が来校し、「コミュニケーション英語」の授業に取り組んでいただきました。ALTの先生が、中・高等学校で英語の授業補助を行うようになったのは1987(昭和62)年からで、「語学指導等を行う外国青年招致事業(JETプログラム)」という国際交流事業として始まりました。詳しくは一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR/クレア)のホームページ【http://www.clair.or.jp/index.html】を読んでいただければと思いますが、この制度が始まってもう34年目になるということです。平成23年度から実施された小学校の学習指導要領に「外国語活動」が位置づけられてからは、小学校にもALTの先生が訪問するようになっています。

さて、今日来ていただいたのは、Geraldine Repolidonさん(ご本人は『ジー』と呼んでくださいと言っていました)というフィリピン共和国出身の女性の方で、本校に来ていただくのは初めてでした。初めてのALTの先生が来られる時には、スーパーバイザーの先生が同行してくれるとのことで、トニー先生というベテランの先生も一緒に来てくれました。アメリカ出身のトニー先生は本校3回目の訪問だそうで、日本に住んで18年、日本語も流暢に話されていました。

本校のALTによる授業は、月に1回、学部を併せての授業として行っています。学部や学年をまたいでいますので、教科書は使わず、各ALTの先生方がオリジナルの教材を準備し、英語によるコミュニケーションの楽しさを味わうことを目標として取り組んでいます。普通校のように、ALTの先生に毎週来ていただくことは難しく、ジーさんも普段は高松高校での授業が主で、週1回は志度高校にも出かけているとのことでした。

今年度は感染症の影響もあり、今回が年度初めての授業となりました。今日の授業に参加したのは、英語の授業を受けている小学部6年生1名、高等部普通科2年1名、3年1名、保健理療科2年1名の計4名でした。授業の様子を教室の外から少しだけのぞかせてもらいましたが、笑顔と笑いと拍手が起こる、とても楽しそうな授業でした。授業のテーマは「Show and Tell」、自分の好きなもの、得意なものなどをお互いに紹介し合うことから始まったようで、ジーさんは得意な歌を、トニーさんはエレキベースを持参しての生演奏と、場を盛り上げてくれたようでした。生徒にはそれぞれタブレットを用意し、ジーさんやトニーさんが準備した写真なども手元で拡大して見ることができるよう配慮していました。生徒にとって、生きた英語を学べる大変貴重な時間でした。

授業が終わったあと、ジーさんとトニーさんには校長室に来ていただき、本校の英語担当の先生と4人で授業の振り返りと次回の打ち合わせという名目で、しばらく歓談をしました。ジーさんは日本に来てまだ半年、コロナ禍の渡航制限がかかる前ぎりぎりで日本に来ることができたそうです。ジーさんはまだ日本語が十分でないようで、私も英語での会話にチャレンジしようとちょっとだけ心構えをしていたのですが、トニーさんがあまりに流暢な日本語を話し、ジーさんにさっと英語で通訳してくれるので、そこでの会話はほとんど日本語になってしまいました。思い切りの足りない自分が情けなかったですが…。

歓談の最後に、ジーさんに将来の夢を聞いてみました。ジーさんは、日本で働いて日本で家庭を持つこと、そして家族を日本に招待したいとキラキラした瞳で話してくれました。日本はいい国、魅力的な国であると評価してくれているようで、うれしく思いましたが、日本に住んでいる我々日本人は、日本という国をどう捉えているのでしょう。これからどういう国にしたいのでしょうか。自戒も含めてですが、決して人任せにはせず、我々一人一人がよく考え行動しなければとあらためて思いました。

 

令和2年9月7日

香川県立盲学校長 田中 豊

校長からみなさまへ

2020年8月24日 14時13分

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<第2学期が始まりました>

 

8月24日(月)、始業式が行われ、2学期がスタートしました。3週間という短い夏休みでしたが、幼児児童生徒のみなさんも健康に毎日を過ごすことができたようで、全員の元気な顔を見ることができ、とてもうれしかったです。

始業式では、連日続く猛暑について話をした後、「喉元過ぎれば熱さ忘れる」という諺を引き合いに、校訓の一つである「報恩」についての話をしました。

今年は、7月末にようやく梅雨が明けたと思った途端、連日30℃を超える真夏日になりました。夏休み中の3週間、高松では35℃を超える猛暑日が12日もありました。最高気温は8月17日の38.3℃、体温だったら即病院へという気温でした。この気温は高松の過去最高の気温かも、と調べてみると、2013(平成25)年8月11日に38.6度という記録がありました。今から7年前の夏のこと、そういえば息子のインターハイの応援に大分県日田市まで車で出かけ、非常に暑かったなぁという記憶はよみがえってきました。しかし、高松市の歴代最高気温のことは全く記憶になし。たぶん新聞等には大きく載っていたと思うのですが…。

人間は、自分にとって関心のない出来事はすぐに忘れてしまいます。また、都合の悪いことは忘却の引き出しにしまい込んで、意図的に忘れたかのようなふりをすることもできます。忘れていかないと前に向いて進めないということもあるでしょう。しかし、苦境に立たされたとき、辛い場面に遭遇したときには、この忘却の引き出しを開け、二度と同じような失敗を繰り返さないよう行いを改めることができるのも人間です。始業式で「喉元過ぎれば熱さ忘れる」と「報恩」について偉そうに話をしたものの、自分はこれまでたくさんの人から受けてきた恩義に向き合いお返しができたか、不義理はなかったかなどと、都合の悪い引き出しもちょっとだけ開けながら反省しました。

このコロナ禍もいつまで続くか分かりませんが、いずれは収束し、以前のような生活が戻ってくると思っています。何年か先には、こんなこともあったなぁと笑顔で話ができる時代に早くなってほしいですが、この経験ははっきりと記録に整理し、記憶に留め、決して都合の悪い引き出しにはしまわないようにしたいと思います。

 

さて、話は変わりますが、8月22日(土)午後に本校で「サマースクール」と題して、県内の視覚障害のある中高生等を対象とした勉強会を開催しました。講師は教員などではなく現役の大学2年生で、ご自身も視覚障害があり地域の小・中学校、県立高等学校で学び、昨年県外の大学に入学された方、本校も教育相談等で関わってきた方でした。高校に入学してからのこと、大学入試のこと、大学生活のことなどについて、困ったこと、努力したことなどを分かりやすく話してくれました。今年は県内各校とも夏休みが短縮されたこともあり、校外からの参加者は少なかったですが、本校高等部普通科生徒の外、県立高校で学ぶ高1の生徒が1名参加してくれました。また、講師の高校時代の恩師の先生方もサプライズで参加してくれ、旧交を温めたようでした。勉強会の内容については、またホームページに掲載されると思いますが、一言感想です。講師の大学生は様々なことにチャレンジして、周囲から叱られる失敗もたくさんして、それでもへこたれずにたくましく生きているなあということです。淡々とした語りからは想像できない芯のしっかりした実行力のある方だと感心しました。本校の生徒がこの話を聞いてどう感じ何を考えたか、また聞いてみたいです。

 

では、2学期も感染症対策を継続しながら、幼児児童生徒の教育活動にできるだけ制約が出ないよう熟慮して取り組んでいきます。関係のみなさま、今学期もどうぞよろしくお願いいたします。

 

令和2年8月24

香川県立盲学校長 田中 豊

校長からみなさまへ

2020年8月18日 11時26分

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<第2回かがわロービジョン研修会を開催しました>

 

昨日8月17日(月)の午後から、今年度第2回目となるかがわロービジョン研修会を開催しました。第1回のロービジョン研修会の様子については、6月25日付の校長からのお知らせでも紹介しましたが、その中で第2回のことについても少し触れました。今回の研修会は、愛知教育大学の相羽大輔先生をお招きして、視覚障害のある子どもたちが大学入学までに身につけておいてほしい力などについて話をしていただく予定でした。しかしながら、いったん下火になったこの感染症が7月に入って徐々に拡大し、7月中旬から第2波の様相を呈するようになり、愛知県も県独自の緊急事態宣言が出されました。こうした状況等を総合的に判断し、相羽先生には大変申し訳なかったのですが、オンラインでの研修会に変更させてもらうことにしました。すべて双方向通信のオンライン研修会ができないか本校の担当の先生方が様々模索してくれましたが、校内のWi-Fi環境が十分でないために、2コマの講義については音声を入れたデータを事前に送っていただきオンデマンドの講義として、最後の約30分間だけZoomによる生中継でのお話と質疑応答の時間とさせてもらうこととなりました。

相羽先生の講義テーマは『高等教育までに身につけたいコミュニケーションスキル』。大学入試に臨むにあたって必要な準備や、大学入学後に必要な支援技術についても話していただきました。前半は生徒・保護者対象、後半は教職員対象の講義でした。前半、後半の講義ともに共通していたのは、障害のある子どもたち自身が周囲に自分の障害のことを説明(障害開示)し、必要な支援を依頼(援助要請)できるようになること、そのためには周囲との円滑なコミュニケーションの力を小学生から段々に養っていく必要があるということでした。小学校、中学校、高等学校の各段階で身につけておくべき力を、具体的事例を挙げながら分かりやすく説明してくれました。講義資料の抜粋ですが、「高校生になると、様々な場面で自分のニーズや必要な支援について、適切な方法ではっきりと周囲に伝え、かつ、円滑に支援がもらえるようなコミュニケーションができるようになる必要があります。また、信頼できる友達をつくり、上手に人間関係を育み、彼らを頼りながら、情報を補うこと、プライベートを充実させることが求められます。」と、本人の障害開示と援助要請というのは、周囲の温かい理解だけでなく、時には対立してぶつかり合い、語り合って、そして分かり合える本当の友達がいてはじめて可能なことだと改めて思いました。「プライベートを充実させる」というのもとても大事なことです。

相羽先生ご自身が、生まれつきアルビノというメラニンが欠乏する疾患により、先天性の弱視があります。小学校は地元で学び、中学校から筑波大学附属盲学校(現 視覚特別支援学校)に進学され、大学では心理学を専攻されたそうです。ロービジョンの当事者としてこれまで様々な経験をされてきたと察しますが、たいへん穏やかで優しい語りには説得力があり、障害のある子どもたちに寄り添う姿勢と愛情が感じられました。直接お会いして、もっと時間をかけていろいろな話を聞いてみたいとつくづく思いました。本当にありがとうございました。ぜひまた機会をつくって、本校に、香川にお呼びできればと考えています。相羽先生、よろしくお願いいたします。

本校で初めて催したオンライン研修会、双方向通信の時間は短く、通信の状態は十分とは言えませんでしたが、コロナ禍の収束が見通せない中、今後の研修の在り方の一考となったのではないでしょうか。他校より参加いただいた子どもたち・保護者の皆さま、熱心な先生方に敬意を表するとともに、オブザーバーとして参加いただいた眼科医の星川先生、視覚障害者福祉センターの中口さんに感謝申し上げます。そして、会の運営のために力を尽くしてくれた本校の先生方、ありがとうございました。

 

令和2年8月18

香川県立盲学校長 田中 豊

校長からみなさまへ

2020年7月30日 10時57分

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<校内弁論大会を開催しました>

 

昨日7月29日(水)の6校時に、校内弁論大会を開催しました。例年であれば5月の連休明けあたりに開催していましたが、感染症による臨時休業のため延期とし、この日の実施となりました。

 

全国の盲学校(視覚支援学校)では、毎年、学校ごとに弁論大会を実施しています。これは年に1回、全国盲学校長会と毎日新聞社の主催によって開催される「全国盲学校弁論大会」につながっているからです。全国盲学校弁論大会に出場するまでには段階がありまして、校内で最優秀弁論になった生徒は、全国7地区(北海道・東北・関東甲信越・中部・近畿・中国四国・九州)の予選大会に出場します。その各地区の予選大会で最優秀に選ばれた弁士が、全国盲学校弁論大会に出場する資格を得ることとなっています。

昨年度、東京都立文京盲学校で開催された全国盲学校弁論大会は、なんと88回目の大会でした。この大会が最初に開催されたのは1928(昭和3)年で、1923(大正12)年に起きた関東大震災から、東京が新しい都市計画に基づき、ほぼ復興した時代に重なります。太平洋戦争が激しくなった1944(昭和19)年から終戦、戦後にかけての3年間はさすがに中断したようですが、それ以外は毎年開催されています。昨年度の全国大会には、本校高等部2年生(当時は1年)のY君が中国・四国地区代表として出場し、「My True Self」と題した弁論を発表しました。Y君は昨年度の校内弁論大会で最優秀となり、鳥取盲学校で行われた中国・四国地区盲学校弁論大会に出場、参加した各校代表9名のなかで最優秀賞を獲得し、全国大会への切符を手にしました。全国大会では3位までの入賞には届かなかったものの、優秀賞をいただき、本人も大いに自信をつけました。

今年度の全国大会は岐阜盲学校で開催されることとなっていましたが、新型コロナウイルスには敵わず、戦中戦後を除いて初めての大会中止となりました。中国・四国大会は徳島視覚支援学校で行われる予定でしたが、この大会も全国大会に連動する形で中止となりました。中四国の大会も全国の大会も中止となって、校内の弁論大会についてもどうするかの議論はありましたが、高等部3年生の「ぜひ開催してほしい」という熱意もあり、実施することとなりました。

 

昨日の大会、出場した弁士は4名、高等部普通科の2年生が2名、3年生が2名という顔ぶれでした。昨年度中国・四国大会で最優秀賞を獲得し、全国大会に出場したY君も登場しました。この日ばかりは各弁士ともマスクを外し、感染症対策の予算で購入したサブロク板サイズのアクリルボードの前に立って、感情をこめながら熱弁を振るいました。

 

各弁士の弁論テーマは…

高2のM君『17歳になってがんばりたいこと』、高2のY君『日々是好日』、

高3のK君『共生社会を目指して』、高3のYさん『Help ~この気持ち届け~』

 

それぞれが、自分の思いを自分の言葉で、表現することができました。やはりリモートでは味わえない臨場感と感動があり、言葉の力って凄いなあとあらためて感じました。発表後すぐに別室で審査となりましたが、いずれの発表もそれぞれの良さがあり、なかなか甲乙つけ難い審査でした。結果、最優秀となったのは、自分の過去を振り返りながら、本校に入学して仲間ができ、徐々に自分の障害を受け入れることで前向きになり、自分が社会に役立つ人間になることで社会を変えようとの決意を語った弁論でした。最優秀賞の発表は、明日の終業式の前にある表彰式となっていますので、ここでは伏せておきます。

言葉は自分の思いを伝える一つの方法ではありますが、相手に思いを伝える方法は様々です。手話だったり、サインやシンボルだったり、身体の動きだったり。文字だったり、絵画だったり、音楽だったり…、芸術といわれるものを数えればまだまだたくさんあります。その人その人にとって得意な伝え方が理解されることで、コミュニケーションも広がります。自分の伝えたい思いが相手に伝わったとき、お互いに笑顔になります。それが自然につながっていく世の中になればなぁと思います。大会後、来春に卒業を迎える高等部3年生が、「やりきった」という、とても晴れやかな表情だったのが印象的でした。

 

明日はいよいよ1学期の終業式です。年度の初めから、感染症への怖れも十分に感じながら様々な対策をして学校運営に取り組んできました。振り返れば長かったなあというのが実感ですが、今までの教員生活にはない「有難い」経験をさせてもらいました。(何ごともポジティブに考えて‥)幼児児童生徒のみなさん、そして先生方も、今日まで健康で本校のめざす教育活動に取り組めたことが一番の感謝です。保護者のみなさまのご協力にも、深く感謝申し上げます。

いつもより短い夏休みとはなりますが、何もしないだらだらとした時間を過ごすことも大切だと思います。それぞれの方法でリフレッシュしていただいて、8月24日から始まる2学期の始業式に、元気な笑顔を見せてくれることを楽しみにしています。

ありがとうございました。

 

令和2年7月30

香川県立盲学校長 田中 豊

校長からみなさまへ

2020年7月17日 22時35分

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<「介護等の体験」に大学生2名が来校しました>

 

7月16日から2日間、徳島文理大学の学生さん2名が「介護等の体験」のため来校し、学んでいただきました。県下の各特別支援学校では、毎年「介護等の体験」の大学生を受け入れており、本校は2期に分けて4、5名の学生に来ていただいていますが、生徒数(学級数)の多い特別支援学校は、年間10名程度の学生を受け入れているところもあります。

そもそも「介護等の体験」とはなんでしょう。教員の皆さんや教員免許取得を目指す学生さんには説明するまでもないことですが、この制度をご存じない方のために少し説明します。

「介護等の体験」は、小学校教諭、中学校教諭の普通免許状を取得するために必要な大学の必修単位で、いわば大学の授業です。平成九年に法律第九十号として成立した「小学校及び中学校の教諭の普通免許状授与に係る教育職員免許法の特例等に関する法律」(以下、省略して介護等体験特例法といいます)で、平成1041日に施行され、それ以降に小学校・中学校の教員免許を取得した先生方は、すべてこの「介護等の体験」を経験しているということになります。介護等体験特例法には、介護等体験の内容として「障害者、高齢者等に対する介護、介助、これらの者との交流等の体験」、介護等体験の実施施設として「特別支援学校又は社会福祉施設」その他省令で定める施設とされています。実施時期及び期間については、「十八歳に達した後、七日を下らない範囲」とされていて、7日のうち文科省の通達では特別支援学校で2日、社会福祉施設で5日が望ましいと示されています。制度ができて最初に「介護等の体験」を受けた先生も、教員になって約20年、この経験を生かして、学校の中心となって活躍している人も多いのではないかと思います。

そういえば約20年前、最初に「介護等の体験」という制度と言葉を聞いたときに、違和感を覚えた記憶があります。当時は香川中部養護学校に勤務していましたが、「介護」という表現に、ここは介護のための施設ではない、ここは学校で、我々教員は「教育」をしているという思いが強く、体験に来た学生に対して「介護」とは違うという意識づけにこだわっていたように思います。でも「介護」の「介」という字は、人を両方から二本の柱で支えるという意味や人同士のやり取りを仲立ちするといった意味の会意文字であり、「護」は守るです。「介護」と「教育」の違いにこだわっていた頃の私は、恥ずかしながら「介護」に対する偏見がありましたが、今は考えを改めています。「介護」と「教育」は唇歯輔車であり、お互いの役割を確認し協力し補い合うことで、支援の必要な人たちの人生を支えています。

さて、本校での体験ですが、年度当初は5月中旬の体育祭の日に合わせて実施の予定でしたが、今回の感染症による臨時休業で体育祭を中止にしたため、時期をずらし平常日2日間の実施となりました。2日間の主な内容は、視覚障害の理解のための講話、授業参観や授業参加、点字体験や歩行指導の体験など、学生さんたちにとって中身の濃い時間であったのではないでしょうか。1日目の5校時の時間帯には、高等部普通科生徒のうち大学進学を希望する2、3年生3名と、自由に対話をしてもらいました。大学生活についてまだ具体的なイメージをもちづらい本校生徒にとって、現役の大学生からキャンパスライフの話を聞くことは、大変刺激的で貴重な経験です。私も教室に入って一緒に話を聞きたかったのですが、盛り上がった雰囲気を壊してはいけないと思い遠慮しました。あとでその時間に入っていた先生に話を聞くと、大学生から自分は高校時代に勉強をしなかったので後悔している、後悔しないように今を頑張ってほしいと生徒たちにエールをいただいたとのこと。本校の生徒にも夢があり、お二人の大学生にも夢があります。若い人たちがそれぞれの夢をもって努力できる世の中をつくっていくのは、彼ら彼女らより先を生きる大人の責任でもあります。しかし、大人もその責任を負って苦労するばかりでなく、それぞれの夢に向かって生きることが大切です。若者たちに自分の夢を語り、夢の実現のために努力し続ける姿を見せられる大人でいたいなぁと、この2日間で感じたことでした。体験に来られた二人の学生さんが、本校で感じたこと学んだことを、これからの人生の糧にしていただくことを切に願っています。

 

令和2年7月17

香川県立盲学校長 田中 豊

校長からみなさまへ

2020年7月10日 21時25分

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<福祉サービス事業所体験実習にチャレンジ>

 

7月8日から3日間、高等部普通科3年生徒1名が、卒業後の進路選択を目的として障害者福祉サービス事業所で就業体験に取り組みました。場所は木田郡三木町井戸にある「いっぽ」というところです。「いっぽ」は、「一般社団法人あ・うん」が運営する、昨年9月にオープンしたばかりの生活介護のサービスを提供する事業所です。「一般社団法人 あ・うん」そのものが、昨年4月に登録した新しい法人で、居宅介護事業所「ありがとう」の設立を皮切りに、9月にはこの「いっぽ」、12月には地域活動センター「ありがとうZ」を設立するなど、事業規模を広げています。

今日、7月10日、進路指導主事の車に同乗し、実習へのお礼方々、「いっぽ」で頑張る生徒の様子を見学させてもらいました。さぬき新道(県道13号線から279号線に入る辺り)を東に向かって進むと右手にローソン三木町井戸店があり、その交差点を南に少し入ったところに、「いっぽ」はあります。一見すると昔ながらの大きな民家といった感じで、周囲の田園風景に溶け込んで優しい雰囲気を醸し出していました。この民家の中身を改修し、元々納屋であった建物には車いすの方でも利用できる広い空間を確保し、古民家の良さも残しながら落ち着いた感じの建屋となっていました。新規の障害者支援施設は、建物を新築して開所することが多い中、こちらはリノベーションにより、障害のある人々も地域で当たり前に暮らせるよう配慮した場所といった印象でした。

本校の生徒も初めての実習先でしたが、訪問時には入浴サービスを受けたあとで、この場にすっかりなじんでリラックスした様子でした。支援員の方も本人の意思を尊重し、伸び伸びと充実した時間をすごしているようで安心しました。ちょうど、香川中部養護学校の高等部3年生も実習中で、私も知っている生徒でしたので、挨拶をするとにこにこして返事をしてくれました。思わぬ出会いに、心が温かくなりました。

さて、この法人の「あ・うん」という名称について個人的に興味がありましたので、代表理事の高橋さんに命名の由来を聞いてみました。「あ・うんという法人名にしたのは、物事の最初は『あ』で始まり、最後は『うん』で終わります。最後まで障害のある方とともに歩みたい、我々と利用者さん、利用者さん同士が息を合わせて活動していくことを理想とする施設でありたいという願いからです。」とのことでした。ついでに、居宅介護事業所の「いっぽ」や地域活動支援センターの「ありがとう」という名称についても、平仮名にこだわったことと普段何げなく使っている言葉を大切にしたいという思いからその名にしたようでした。高橋さんと直接お話したのは初めてでしたが、15年ほど前に私自身も中部養護で進路指導主事をしていたことから様々な就労支援の施設等を回っていましたので、その時にお顔は拝見した記憶があり、話も盛り上がりました。いろいろなご縁を大切に生きていけば、幸せな時間が持てるのだなあとあらためて思いました。

仏教でいうあうん(阿吽)とは、「阿」がものごとの始まり、「吽」がものごとの終わりを意味すると言われています。人間はおぎゃーと声を発して生まれてきて、最後にはうんともすんとも言わなくなって呼吸を閉じて死んでいきます。阿吽とは、生命の一生を表す言葉でもあり、人間も生まれたからにはいつかは死ぬという理を表しているとも言えます。死に向かって今を生きていることは誰もが分かっていることですが、生に執着して一生懸命生きるのも人間です。生きていると苦しいこともたくさんありますが、楽しいこともたくさんあります。生きるとは一切皆苦、とお釈迦様は言いました。お釈迦様のように、生きることは諸行無常であり、諸法無我であることを悟り、涅槃寂静に至ることができればいいですが、なかなか難しいですね。「いっぽ」を訪問したあと、そんなことも考えました。

「あ・うん」の精神が広く理解され、これからも障害のある人々の生活に寄り添いながら、きっと地域に根づいていく場所になると信じています。実習への感謝とともに頑張ってほしいと思いました。

 

令和2年7月10

香川県立盲学校長 田中 豊

校長からみなさまへ

2020年6月30日 15時13分

 

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<令和2年度 香川ロービジョンケア推進委員会に参加しました>

 

昨日6月29日の午後8時から、香川ロービジョンケア推進委員会が開催され、本校高等部主事と二人で参加しました。会場はそれぞれの自宅。そうです、ZOOMを使ったリモート会議でした。昨年は、かがわ総合リハビリテーションセンターの会議室でしたが、今年は感染症拡大防止のため、各々の自宅または職場からの参加となりました。

この推進委員会ですが、平成27年3月に、「香川スマートサイト推進委員会」として県内眼科医が中心となって発足し、同月、第1回の会議が開かれました。「スマートサイト」とは、視覚障害があるためリハビリテーションが必要な人々を、それぞれのニーズに対応できる専門機関に確実につなぐための仕組み、ツールです。2005年にアメリカ眼科学会で始まったインターネットを活用した情報提供の取組で、視覚障害者が利用可能な支援を行っている機関のサイト等を紹介するサイトとして始まったようです。日本では、2010H22)年に兵庫県眼科医会が「スマートサイト」を立ち上げたのを最初に、各都道府県に普及していったとのこと。目に異常を感じた人や見えにくい状態になった人は必ず眼科を訪れます。その際、眼疾等の診断と治療をするだけでなく、患者さんへのリハビリテーション(ロービジョンケアと言います)についての情報や福祉・行政等のサービスを適切に伝えることができれば、視覚障害者の生活の質の向上にどれだけ役に立つか、関係機関の連携を見直し、さらに深めていこうという視点から本県でも組織化されました。

本校も第1回の会議から参加させてもらい、今年度で6年目となります。平成30年度より会の名称を「香川ロービジョンケア推進委員会」に改称し現在に至っています。啓発のためのリーフレットの第一版は、2016H28)年の4月に完成し、〝よつばネットかがわ“として県内の眼科や視覚障害福祉センター、障害福祉相談所、そして本校など視覚障害に関わる機関に配布されました。

さて、昨日の出席者は16名で、香川県眼科医会会長さんを始め眼科医の先生が9名、視能訓練士の方が3名、歩行訓練士であり視覚障害者福祉センター職員の方が1名、視覚障害者福祉センターの館長さん、そして本校の2名でした。本校からは、今年度「見えにくさと学びの相談センター」が対外的に行う地域支援等に係る主な行事について説明し、簡単にコロナ禍における学校の様子なども報告させていただきました。

今回の会議の主な目的は、〝よつばネットかがわ“リーフレットの第二版作成についてでしたが、やはり話題の中心は、コロナ禍による自粛と政府が提唱する「新しい生活様式」がもたらす視覚障害者の困り感についてでした。新しい生活様式が杓子定規に取り入れられると、視覚障害者にとって生きづらい世の中になります。スーパーに買い物に行っても、今までは商品を手に取って確認していたが、それがしづらい雰囲気。スーパーでソーシャルディスタンスを取る方法としてカートを押すようにしたが、他の人にぶつけてしまうことがあるので困っている。100円ショップでは、コロナ対策のため従業員にはできるだけ話しかけないようにとのアナウンスが流れているなど、視覚障害者の生の声を各委員さんから聞かせていただきました。大変勉強になるなあと感心するとともに、自分の感性のなさを痛感しました。日常生活の中でなぜと疑問に思うこと、感じる心を絶えず磨く努力がまだまだ足りないと思いました。

第一版のリーフレットの改訂については、まだ余部が結構あることから、令和4年4月の発行を目指して編集作業に取り掛かることとなりましたが、これからの時勢に合わせた内容も盛り込む必要があるとの意見もありました。

最後に、眼科医会会長さんから日本眼科医会のロービジョンケアサイトの紹介がありました。関心のある方は
https://low-vision.jp/ にぜひアクセスしてみてください。

 

令和2年6月30

香川県立盲学校長 田中 豊